「は、はい…あ、あの…旦那様…」
「どうした?」
「その…距離が、近いです…」
咄嗟に出た行動で、澄は押し倒され茹蛸のように顔を赤くした。
「あ…すまん。倒れないよう支えたつもりだった」
「あっ…申し訳、ありません…」
「俺と話す時の澄の声は、震えて小さい…俺が怖いか?」
澄に確認する律の表情は、いつもと変わらないように思えた。
しかし、どこか寂しそうに見えた。
「い…いえ。怖いとか、そういうのは…」
澄が首を横に振った。
契約結婚とはいえ、粗相をすれば契約を打ち切られるかもしれない。
そうすれば、本当に自分の行き場がなくなってしまうのではないか。
そう思い、律の顔色を伺っていた。
「そうか。だが、そういうのは仕事で慣れている。だから、言いたいのであれば遠慮なく言え」
「っ…」
言葉に詰まった。
ここで拒めば、この居場所まで失ってしまう。
そう思い、律の顔を見た。
「…本当に大丈夫か?」
「っ…はい」
すると、律はそっと澄と唇を重ねた。
これは、生活のため。
いずれ誰かと結婚して子どもを生むことになる。
それがただ、この人になっただけ。
しかも、今後の生活においてお金に困らないのだからーー。
そう思い、そっと目を閉じた。
しかし、目を閉じた瞬間ーー澄の脳裏に何かが浮かんだ。

