「あ、あの…」
「何だ?」
「他に…何かあるのではないのでしょうか?」
ここまでの話は、ただ生活をして契約を続けるならこの屋敷で、やめたとしてもお金を貰えるという澄にとって、都合が良すぎる。
疑り深く、恐る恐る尋ねれば表情ひとつ変えずに律が口を開いた。
「まぁ、どこの夫婦とも変わらないと思うがーー世継ぎを産んでもらう」
「よ…よよっ、よつ、ぎっ…!?」
一瞬にして、澄の顔が茹蛸のように真っ赤になった。
世継ぎを産むということは、つまりそういうこと。
今日出会ったばかりの人と、子どもを設けるということである。
「…どうした。夫婦であれば、これくらい普通だろ?」
「当主様。嫁入り前の娘さんですから、この手の話に不慣れなのは仕方ないかと」
「なぜだ。むしろ、嫁に行く前に言われるだろう」
澄の様子を見てフォローを入れた笹森に、むっとする律。
笹森は申し訳なさそうに澄に頭を下げた。
「それで、どうする」
「へっ…」
「この話受けるのか、断るのか。受けるのであれば、月城殿に今後の人生、金で不自由はさせない」
澄の心は、律の言葉によって揺らいだ。
いつか、好きな人と結ばれたらという未来を想像しなかったわけではない。
まだまだ、親同士が決めた結婚や政略結婚が多い。
今後、誰かとそうなるかもしれない。
そうなるのが、早いか遅いかの話。
そして、この話に乗れば金には困らない。

