【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

自分の口を手で覆い、耳の付け根まで赤らめながら、消え入りそうな声で要望を口にする。
彼女なりの精一杯の甘え。
そのあまりの愛らしさに、胸の奥が熱く疼く。

すみれの手を引いてソファに腰掛け、そのまま膝の上に抱え上げるようにして座らせる。
彼女の軽さが、胸に痛い。

「——すみれの、好きなように」

そう言って、両手を広げてみせた。

「え……?あ、あの……?」

やはり今のすみれには刺激が強すぎたか。
戸惑いの表情で瞬きを繰り返し、逃げ道を探すように視線を彷徨わせる。
だが、やがて俺の様子を上目遣いでじっと伺い、決心したように——小さな子猫のように、こてん、と俺の胸に額を預けてきた。

その重みが、たったそれだけのことが、堪え難いほど愛しい。

先ほどまでの荒れ狂うような欲は、依然として俺の中に居座っている。
だがそれ以上に、春の日差しのような穏やかな暖かさが、身体の芯からじわりと湧き上がってくる。

何にも代えがたいほど愛しい。
単に『俺の異能が効かない』と言う特異な体質ゆえの興味ではない。
あの日、井戸の脇に座り込むすみれを見た時から、すみれにだけは特別な感情を抱いていた。
——最初から、もっと根深いもの。

時間にして、数分だっただろうか。

「……っすぅ……」

やがて、腕の中のすみれの身体から、ふっと力が抜けた。
聞こえてくるのは、穏やかで無邪気な寝息。

一週間の極度の緊張。
そして今日の騒動。
よほど心身ともに疲弊していたのだろう。

張り詰めていた糸が切れたのだろうか。
俺の腕の中が彼女にとって『安全な場所』だと認識していることに嬉しくなる。

「……それにしても。この態勢で眠ってしまうとは……」