「なぜ……なぜですの、暁お兄様……っ!」
「……黙れ。追って五条家から、正式な抗議と処分を伝える」
「千鶴は、高貴な宮家の女王ですのよ!?それを差し置いて……そんな、何一つ持たない『無華』を選ぶと言うのですか!?」
千鶴様の悲痛な叫びが、廊下に響き渡る。
あの方ほど気位の高い人が、これほどまでに醜く声を荒げるなんて——。
けれど暁臣様は、彼女と目を合わせることさえしなかった。
一瞥もくれず、ただ私の手を優しく取り、引いて歩き出す。
「だからなんだ。……他者から与えられただけの地位と言う名に、一体何の価値があると言うのだ」
その冷徹なまでの突き放す言葉。
その言葉があまりにも冷たすぎて、千鶴様の方を見ることができない。
——けれど同時に、胸の奥で、ひどく確かなものが静かに灯った。
暁臣様は、私を選んだ。
私の手を取って、連れ出してくれた。
その事実だけが、今の私を支えている。
外はすっかり真っ暗になり、車のヘッドライトだけが、流れる夜の景色を鋭く切り取っている。
闇に沈む街並みは無音の絵のようで、ただタイヤの音だけが淡々と続いた。
「信子殿。……此度の件、本当にすまなかった。白川子爵には俺の方から事情を説明し、了解も得てある。後日、改めて俺からも謝罪に伺わせてもらいたい」
「……恐れ入ります、殿下」
自宅の前で車が止まり、信子さんが静かに降りていく。
その背中を見つめながら、せめて最後にきちんと謝罪とお礼を伝えなければと思うのに——
喉の奥が熱く張り付いたようになり、言葉がどうしても形にならない。
こんなにも多大なご迷惑をおかけしてしまったのだ。
きっと、もう信子さんに教えを乞うことは叶わないのかもしれない。
暁臣様に謝罪までさせて、そうなっても仕方のないことをしてしまった——その後悔で、視界が滲んでくる。
結局、私はいつもこうだ。
どれほど多くの人に助けられ、守られてきても、最後には『拒絶されること』を過剰に恐れてしまう。
相手から厳しい言葉を聞くのが怖くて、本当は伝えなければならない感謝や決意を、気づかぬうちに胸の奥へ飲み込み続けてしまうのだ。
「すみれお嬢様。……また、次の水曜日。お伺いいたしますね」
「……黙れ。追って五条家から、正式な抗議と処分を伝える」
「千鶴は、高貴な宮家の女王ですのよ!?それを差し置いて……そんな、何一つ持たない『無華』を選ぶと言うのですか!?」
千鶴様の悲痛な叫びが、廊下に響き渡る。
あの方ほど気位の高い人が、これほどまでに醜く声を荒げるなんて——。
けれど暁臣様は、彼女と目を合わせることさえしなかった。
一瞥もくれず、ただ私の手を優しく取り、引いて歩き出す。
「だからなんだ。……他者から与えられただけの地位と言う名に、一体何の価値があると言うのだ」
その冷徹なまでの突き放す言葉。
その言葉があまりにも冷たすぎて、千鶴様の方を見ることができない。
——けれど同時に、胸の奥で、ひどく確かなものが静かに灯った。
暁臣様は、私を選んだ。
私の手を取って、連れ出してくれた。
その事実だけが、今の私を支えている。
外はすっかり真っ暗になり、車のヘッドライトだけが、流れる夜の景色を鋭く切り取っている。
闇に沈む街並みは無音の絵のようで、ただタイヤの音だけが淡々と続いた。
「信子殿。……此度の件、本当にすまなかった。白川子爵には俺の方から事情を説明し、了解も得てある。後日、改めて俺からも謝罪に伺わせてもらいたい」
「……恐れ入ります、殿下」
自宅の前で車が止まり、信子さんが静かに降りていく。
その背中を見つめながら、せめて最後にきちんと謝罪とお礼を伝えなければと思うのに——
喉の奥が熱く張り付いたようになり、言葉がどうしても形にならない。
こんなにも多大なご迷惑をおかけしてしまったのだ。
きっと、もう信子さんに教えを乞うことは叶わないのかもしれない。
暁臣様に謝罪までさせて、そうなっても仕方のないことをしてしまった——その後悔で、視界が滲んでくる。
結局、私はいつもこうだ。
どれほど多くの人に助けられ、守られてきても、最後には『拒絶されること』を過剰に恐れてしまう。
相手から厳しい言葉を聞くのが怖くて、本当は伝えなければならない感謝や決意を、気づかぬうちに胸の奥へ飲み込み続けてしまうのだ。
「すみれお嬢様。……また、次の水曜日。お伺いいたしますね」



