低く、けれど確かな意志を宿した暁臣様の声。
私は言われるまま、一歩、また一歩と扉から後退した。
直後。
分厚い木製の扉の中心から、じわりと黒く変色が広がり始める。
それは生き物のように侵食を続け、次の瞬間——
ザアッ、と砂が崩れるような音を立てて、扉が形を失い、霧散した。
視界が開ける。
舞い散る黒い塵の向こう側。
あれほど会いたいと願っていた人の姿が、そこにあった。
「っ……」
「すみれ……っ!」
名前を呼ばれるよりも早く、暁臣様の腕の中に吸い込まれるように抱き寄せられる。
数日ぶりに触れる、暁臣様の体温。
鼻をくすぐる、懐かしい香り。
それだけで、張り詰めていたものが一気にほどけていく。
これまでの私なら、ただ抱きしめられるまま、身を固くするだけだった。
触れてはいけない、迷惑をかけてはいけない——そんな癖が染みついていたから。
けれど——今、この時だけは違った。
私は自分から、彼の大きな背中に手を回す。
二度と離さないように、服をぎゅっと掴み、彼の胸に顔を埋める。
「ぁき……おみ、様……」
「もう大丈夫だ。……やはり、無理やりに連れ帰るべきだった。俺の判断が甘かった」
「いえ……私の、せいでです……」
暁臣様の胸の鼓動を感じながら、ようやく一息つけた気がした。
呼吸が、少しずつ、現実の速さに戻っていく。
視界の端には、扉が塵と化したこと。
腰を抜かし、怯える人たちの姿。
そして、冷たい床に崩れ落ちている千鶴様の姿が見えた。
私は言われるまま、一歩、また一歩と扉から後退した。
直後。
分厚い木製の扉の中心から、じわりと黒く変色が広がり始める。
それは生き物のように侵食を続け、次の瞬間——
ザアッ、と砂が崩れるような音を立てて、扉が形を失い、霧散した。
視界が開ける。
舞い散る黒い塵の向こう側。
あれほど会いたいと願っていた人の姿が、そこにあった。
「っ……」
「すみれ……っ!」
名前を呼ばれるよりも早く、暁臣様の腕の中に吸い込まれるように抱き寄せられる。
数日ぶりに触れる、暁臣様の体温。
鼻をくすぐる、懐かしい香り。
それだけで、張り詰めていたものが一気にほどけていく。
これまでの私なら、ただ抱きしめられるまま、身を固くするだけだった。
触れてはいけない、迷惑をかけてはいけない——そんな癖が染みついていたから。
けれど——今、この時だけは違った。
私は自分から、彼の大きな背中に手を回す。
二度と離さないように、服をぎゅっと掴み、彼の胸に顔を埋める。
「ぁき……おみ、様……」
「もう大丈夫だ。……やはり、無理やりに連れ帰るべきだった。俺の判断が甘かった」
「いえ……私の、せいでです……」
暁臣様の胸の鼓動を感じながら、ようやく一息つけた気がした。
呼吸が、少しずつ、現実の速さに戻っていく。
視界の端には、扉が塵と化したこと。
腰を抜かし、怯える人たちの姿。
そして、冷たい床に崩れ落ちている千鶴様の姿が見えた。



