【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

もし、すみれにすら触れられなかったら。
彼女もまた、同じように俺を避け、怯え、拒んだのだろうか。

すみれと出会えなかったら——
俺は今も、双蕊となり得る『触れられる誰か』を必死に探し求め、足掻き続けていたのかもしれない。
触れたいのに触れられない。
ほしいのに、手に入らない。
そんな渇きだけを抱えて。

「もう一度聞く。すみれをどこへやった。答えろ」

言葉を吐くたび、胸の奥で黒い花弁がざわめく。
この場の誰も、俺の焦燥が『すみれへ向かう恐怖』だとは気づかない。
彼女が怯えているかもしれない——その想像だけで、理性が削れていく。

偶然、手が触れたことで、すみれだけには俺の『黒薔薇』が刺さらないと知った、あの日。

指先が彼女の肌に触れた瞬間、いつもなら走るはずの灼ける痛みが、嘘のように消えた。
代わりに、温かい柔らかさが掌に満ちて——俺は息を呑んだ。
触れても壊れない。
触れても、奪われない。

それがどれほど奇跡で、どれほど救いだったか。
あの一秒で、俺の世界はひっくり返った。

他者に拒まれる恐怖から解き放たれ、
肌を合わせ、気持ちを分かち合える悦びを——俺は初めて知った。

すみれなら、俺が伸ばした手を、少し照れながらも愛おしそうに受け入れてくれる。
そして、はにかむように、遠慮がちに俺を見上げる、潤んだ虹彩色の美しい瞳。
そのすべてが、狂おしいほどに鮮明に思い出される。

すみれ……今すぐ、お前に触れたい。
お前の柔らかな肌に触れ、この心の乾きを癒したい。

膨れ上がる焦燥は、もはや制御不能なほどに膨れ上がっていた。