【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

千鶴を……嫁に?
あり得ない。
それは、すみれがいるか居ないかの次元ではない。

千鶴では、俺の双蕊どころか——妃の器ですらない。

「どうしても、と暁お兄様が仰るのでしたら——すみれ様を側室にされても構いませんわ。殿方と言うのは、そういうものでしょう?」
「あり得ない。俺は側室を娶る気など、毛頭ない」
「なぜ?すみれ様はただの『無華』で、千鶴は『青薔薇』ですのよ?格も、血の濃さも——違いすぎますわ」

千鶴と言う『青薔薇』の娘が生まれたと鷹宮家から報せが届いた時、宮家の間で少なからず、『『黒薔薇』を継ぐ俺の婚約者に』そう囁かれたのは紛れもない事実だ。

だが、その後。
あらゆるものを塵芥に帰す『異能』が俺に発現したことで、状況は一変した。
どの家も、娘の身を案じるがゆえに、あらゆる縁談の打診は消え去った。
——正しくは、『娘を守るため』と言う大義名分で、俺から距離を置いた。

それでも千鶴だけは、気にすることなく懐いてきた。
俺はそれを、自分を慕う妹のような存在だと思っていた。
だが、まさか千鶴自身が、幼い頃に大人が口にした絵空事を、今でも本気で信じ込んでいるとは。

「千鶴。俺の『異能』は、座興や飾りではない。……その本質を知っているな?」
「もちろんですわ。王華である『黒薔薇』……暁お兄様にこそ相応しく、お似合いの『華』ですもの」

——違う。
千鶴は、おそらく本当の意味では聞かされていない。
俺の『黒薔薇』が、どれほど残酷で救いようのない絶望を孕んでいるかを。
そして、彼女の『青薔薇』程度の力では、俺が素手で触れればひとたまりもないことも。

百聞は一見に如かず、か。

俺は先ほど手袋を剥ぎ取ったままの、剥き出しの右手を持ち上げ、
目の前の卓上に置かれた白磁の茶器へ、ゆっくりと指先を添えた。

「——見ていろ」