【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

甘い声音。だが、底に濁りがある。
すみれを人質のように隠されている今、目的が見えないまま迂闊に力を行使することはできない。

「千鶴。すみれと信子殿をどこへやった。今すぐここへ呼べ」
「まあ!隠しただなんて人聞きが悪いですわ。千鶴たち、ただ楽しくお話ししていただけですもの」

俺の婚約者であるすみれを軟禁しておいて、何を言っている。
にこにこと近づいてくるその微笑みが、今は恐ろしいほど無機質で、張り付いた仮面のように見えた。
かつて感じていたはずの妹のような親しみなど、微塵も残っていない。
無邪気さを装った瞳が、酷く気味が悪い。

「お食事を召し上がる気分でないのでしたら、せめてお茶はいかが?最高級の葉が届きましたの」
「千鶴、ふざけるな。とにかくすみれを——」
「……あまり急かさないでくださいまし。でないと……千鶴は、何をするかわからなくなるかもしれませんわよ?」

自分で……それを言うのか。
それは明確な脅迫だった。

静まり返った奥座敷で、千鶴は優雅に椅子に腰を掛ける。
俺の怒気など気にする気配もなく、紅茶と菓子を交互に口に運び続けている。
湯気の立つカップが、ひどく場違いに見えた。

もう三十分が過ぎただろうか。
この時間のどこかで、すみれが泣いていたら——そう考えただけで視界が熱を帯びる。

「千鶴、何が目的だ。こんなことをして何を得る」
「千鶴はただ、暁お兄様のお嫁になりたいだけですわ」
「……なんだと?」

千鶴のことは幼い頃から知っている。
宮家としての気位も誇りの高さも。
だがこれは——子どもの我儘ではない。

「だって、おかしいじゃありませんか。暁お兄様の『黒薔薇』には、同じ宮家の血を継ぐ『青薔薇』の千鶴こそが、唯一相応しい伴侶ですのに」

千鶴の様子からは、自分が道を外れたことをしていると言う自覚が一切感じられない。
宮家と言う閉ざされた、不可侵にも近い高貴な地位。
それが彼女の価値観を歪め、この身勝手な選民思想へと染め上げたのか。

「すみれ様がいなくなれば、暁お兄様は千鶴をお嫁にしてくださいますでしょう?」