【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

いつもなら、鷹宮邸にいる信子殿からの定時報告を携え、榊原が戻ってくる頃合いだ。

だが、今日はその戻りがずいぶん遅い。
嫌な予感が、冷たいものが這いずるような感触となって俺の背筋を撫でた。
時計の針が一つ進むたび、胸の奥の苛立ちが静かに増していく。

「殿下!ご報告を……。信子殿とお会いすることができず、引き返して参りました」
「なんだと?どういうことだ」
「鷹宮邸にて、門前払いを受けました。緊急の用件があるため、面会も取次も一切できぬと」

門前払い……?
千鶴は何を企んでいる。

信子殿が自らの判断で報告を怠るなど、あり得ない。

連絡が途絶えたと言うことは、彼女の性格を考えると、報告をしたくてもできない——
物理的に外部との接触を遮断されている、と言うことだ。

もし我が五条家の使用人を不当に拘束しているのだとすれば、これは両家の決定的な関係悪化、ひいては政治的な問題にまで発展しかねない。
そして何より——そこに、すみれがいる。

「榊原、すぐに車を出せ。今すぐ鷹宮邸に向かう」
「はっ」

榊原が踵を返した瞬間、無意識に右手を握り込んでいた。
手袋の内側に、あの小さな指の感触が蘇る。
——触れられる。たった一人。
それを奪われるなど、許せるはずがない。

家格としては五条家の方が上だ。
千鶴の独断と考えて間違いないだろうが、放置すれば何が起きるか分からぬ。

さすがに、婚約者とわかっているすみれの身にまで危害を加えるほど、あいつも馬鹿ではないと思いたい。
——だが、『思いたい』で済む話ではない。