【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

千鶴様は立ち止まり、微笑みながら私を見下ろした。
本来なら客人として遇されるべき身でありながら、自然と末席の奉公人に混じってしまう私。
そしてそれを、嫌味一つなく『馴染んでいる』と言い切れる彼女。
——これこそが、私と千鶴様の間に横たわる、埋めようのない決定的な差だった。

「すみれ様。千鶴をお手本にしたいのでしたわね?こちらへ」
「……はい。よろしくお願いいたします」

千鶴様の背を追って廊下を歩く。
やはり、歩く姿さえ芸術品のように美しい。
私のように周囲の視線に怯え、肩をすぼめるような猫背とは無縁だ。

迷いなく、堂々と。
ただそこに在ることが正しい、と疑いもしない足取り。

きっと、こんなふうに歩けたなら。
暁臣様が用意してくださった、あの美しい着物も、モダンな洋服も、身体の一部みたいに着こなせるのだろうか。

「千鶴、これから学校の課題を片付けなければなりませんの」
「……課題、ですか」
「ええ。すみれ様は、よろしければ隣でじっくり見てらして?」

『じっくり』——その言葉通り、千鶴様の挙動のすべてを網羅しようと目を凝らす。

机に向かう時の背筋の曲線。
万年筆を握る白い指。
紙をめくる際の、かすかな衣擦れの音。
瞬き一つ、呼吸一つ。
その一挙一動のすべてが無駄がなく、ただ圧倒されるばかり。

「ふふっ。すみれ様は、本当に素直でいらっしゃいますのね」
「え……?」
「千鶴、不思議に思っておりますの」

柔らかな声のまま、言葉だけが一段、深い所へ落ちた。

「……暁お兄様は、なぜ、すみれ様を選んだのかしら?」