【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

心の中で自問自答している時点で、もう、私と彼女は同じ地平には立っていないのだ。

静まり返った廊下を進む。
板の間に移ると、私が歩くたびに古い木材が悲鳴をあげるようにギシッと撓る。
けれど、前を行く千鶴様の足音は、やはり鳴らない。

滑るように、まるで風に流されるように、彼女は移動していく。
背筋は美しく伸び、指の先まで意識が通っているのに、不思議とどこにも余計な力が入っているようには見えない。

——考えて、やっているのではないのだ。

この人は産声を上げたその瞬間から、こうして生きることを宿命づけられてきたのだろう。
すべての動きが血肉に染み込み、呼吸と同じように当たり前にできてしまう。
そうやって、今の千鶴様ができている。

千鶴様は何も言わない。
ただ、折に触れて振り返り、慈しむような笑みを浮かべるだけ。
その笑みが、なぜだか『上手にできていますか』と静かに問いかけてくるようで。
私は答えを持たないまま、ただ頷くしかなかった。

その静かな優しさに、胸が潰れそうになる。
彼女の一つ一つの所作が、『ここは、あなたの居場所ではありません』と、優しく告げてくるみたいで。

私……。

今まで、暁臣様のお邸では、ここまで己の不格好さを意識したことはなかった。
それは私が優れていたからではない。
暁臣様や邸の人たちが、あまりにも不器用な私に寄り添い、歩幅を合わせてくれていただけだったのだ。

千鶴様は、違う。
きっと暁臣様は、彼女が相手であれば、手加減も譲歩もする必要がない。
二人が並んだ姿——あまりにも容易に想像できてしまった。

そう思った瞬間、邸の床が、私の足元からほんの少しだけ遠ざかった気がした。

——これが、『相応しい』と言うことの、本当の意味。

胸の奥で、冷たく静かに、その絶望を理解してしまった。