【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

車が止まった瞬間、世界を包む音の響きが、二週間前とは違って見える。
暁臣様と共に訪れたはずの鷹宮家。
けれど、隣に彼の体温がないと言うだけで、車輪が砂利を踏み締める音さえも、低く、深く、私の気持ちを吸い込むようにして消えていく。

車を降り立つと、足の裏に伝わる感触がわずかに柔らかい。
踏み固められてきたはずの道なのに、どこか湿った土の気配が残っている。

重厚な門の前で、千鶴様が一度だけ、優雅に振り返る。

「どうぞ、すみれ様。歓迎いたしますわ」

その一言。その微笑み。
それだけで、私は反射的に彼女の半歩後ろへと下がってしまった。
無意識に刻まれた序列に気づき、慌てて歩幅を合わせようとする。
けれど、焦りはさらなる不調和を生むだけだった。

玉砂利を踏む音すらも、私と彼女では全く違う。
私の足音は、どれだけ静かに歩こうとしても、どうしても砂利同士がぶつかり合う雑な音が混じる。
対して、千鶴様の足音は、ほとんど聞こえない。
あんなに踵の高い靴を履いていながら、地に触れる瞬間、砂利一つ鳴らさない。

どうして——?

歩幅、重心の置き方、そして視線の配り方。
足元を一切見ず、前だけを見据えて迷いなく進むその一歩一歩が、生まれた時から譜面に書き込まれているかのように完璧だった。

玄関に上がり、敷居の前で、千鶴様は一瞬だけ足を止めた。
それは迷いでも躊躇でもない。

——確認。

畳に足を乗せる角度。畳の縁を、寸分違わず避ける位置。
私は彼女の動きを見てから同じように真似ようとして——わずかに動作が遅れる。
その一瞬の遅れが、私の心象風景にだけ、畳の縁を不格好に焼き付けた。

踏んで、いない……よね?