【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

すぐに自室へ戻り、身の回りの荷物をまとめる。
暁臣様から贈られた大切な筆入れ、日々を書き留めた手控え帳。
それから、身だしなみのための小さな鏡。
何枚かの着替えをまとめて、風呂敷にまとめて包む。

「すみれお嬢様!せめて殿下のお帰りをお待ちして、お伺いを立ててから……!」

……ダメ。
信子さんの制止に、首を振る。

暁臣様はきっと、私を案じるあまり、鷹宮家へ行くことを許してくださらない。
優しさの檻だと分かっているのに、その檻の中にいることが、今の私には怖い。
『守られている』ままでいる限り、私はいつまでも——守られるに値しない私のままだ。

藤波様の厳しい指導も、篠塚様の優雅な教えも。
そして信子さんとの穏やかな時間も。
すべてが今の私に必要なものだと分かってはいる。

それでも、千鶴様のあの迷いのない美しい所作が、私の胸を殴る。
あんな風にならなければ。
——あの方の隣に立つ資格はないのだと。

「大丈夫です。信子さん……暁臣様が戻られたら、千鶴様のお邸へ伺うと、お伝えいただけますか?」

暁臣様に止められる前に、このお邸を出てしまえばいい。

本当は、怖くてたまらない。
今まで暗い蔵か、暁臣様の広いお邸にしかいなかった私が、たった一人で他家へ伺うなんて——。

けれど、今はとにかく。
暁臣様の隣に立つのに相応しい方の側で、その息遣いを知ることができれば。
何かを変えられるかもしれない。
変えられなければ——私は、またいつか捨てられる。
そんな恐怖だけは、絶対に繰り返したくなかった。