【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

「俺が選んで構わないか?」
「はい……お願いします」
「では、オムライスを二つ。それと、紅茶をホットで」

運ばれてきた皿を前に、すみれは少し驚いたように瞬きを繰り返した。
皿の上には、ふっくらと焼き上げられた黄金色の半月。
たっぷりとかけられたケチャップの鮮やかな赤が食欲をそそり、湯気がトマトの甘酸っぱい香りを運んでくる。

「……卵、ですか?」
「そうだ。中はチキンライスになっている」
「ちきん、らいす……」

説明は簡素だったかもしれない。
だが、すみれは恐る恐るスプーンを入れ、一口分を丁寧に口へ運んだ。
熱さを我慢するように目をぎゅっと閉じ——次の瞬間、表情がぱっと花が開くように変わった。

「……っ!」
「どうだ」
「……おいしい、です。すごく……熱いほどで……」

その素直な感嘆に、思わず視線が逸れる。
自分でも驚くほど、胸の奥が静かな充足で満たされていく。
すみれの小さな口が、一口、また一口と動くたび、彼女の肩がほんの少しずつ下がっていく。
鷹宮家を出た時の凍りついた張りが、嘘のように溶ける。

「……茶会の前に、話しただろう」

不意に、出発前のやり取りが脳裏を鮮明に過る。

『茶など適当にしばくだけでいい』
『……ぷっ。し、しばく、なんて……』
『帰りにどこか、すみれが喜びそうな喫茶店にでも寄ろう。茶会はそのためのついでだと思えばいい』

あの時は場を和ませるための戯言だった。
だが、こうして向かい合っていると、何物にも代えがたい実感が湧いてくる。

「約束、守れたな」
「……え?」
「茶会のついでに、こうして喫茶店に寄ると言う約束だ。寄れて、よかった」

すみれは一瞬呆気にとられた顔をし、それから小さく、本当に幸せそうに笑った。
その屈託のない笑顔を見て、確信する。
社交の席で比べられる必要などない。
『無華』だの『王華』だの、血筋や格式といった言葉に晒される必要もない。
こうして温かいものを食べ、穏やかに笑っている時が、彼女は一番美しい。

「他にも、何か頼むか?甘いものもある」
「……いえ、そんな……これだけで十分です。そんなに、食べられません」
「なら、次の機会にしよう」