【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

「お茶の後は、そのまま晩餐となりますの。暁お兄様も、すみれ様も、もちろんよろしければですけれど」

千鶴は疑いようのない親愛を滲ませて微笑んだ。
そこには、拒むと言う選択肢など初めから存在しないと言わんばかりの自信がある。

「……ああ、分かった」

短く答えつつ、隣に佇むすみれをそっと盗み見た。
彼女は健気にも小さく頷いてみせたが、頬の色は薄く、口元は固く結ばれたままだ。
手元の指先が、着物の合わせを無意識に探るように揺れている。

晩餐は、広間の続きに設えられた立食の場から始まった。
楽団が奏でる優雅な旋律、クリスタルグラスが触れ合う澄んだ音、香水と料理の湯気が混じった甘い匂い。
衣擦れの波の中で、招待客たちの視線が一斉にこちらへ集まる瞬間がある。
——すみれの瞳に、必ず引っかかるからだ。

千鶴は慣れ親しんだ社交の海で、蝶が舞うように知己へ手を伸ばし、自然と人の輪の中心に立っていた。
微笑みも相槌も、寸分違わぬ『正解』の型で、相手の機嫌をほどいていく。
対照的に、すみれは常に俺の半歩後ろを歩く。
俺が少し立ち止まれば、彼女も同じ速度で止まり、視線を落とさぬよう必死にこらえながら、周囲の空気に飲まれまいとしているのがわかる。

その美しさゆえに嫌応なしに目を引く位置にいながら、彼女だけがこの絢爛豪華な世界のどこにも属していないような、危うい孤独を纏っていた。

——やはり、無理をさせている。
そう痛感した矢先、不意に千鶴が俺の名を呼んだ。

「暁お兄様、こちらへ。どうしてもお会いいただきたい方が」