【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

「……暁お兄様。そちらの、お連れの方は……?」
「すみれ。紹介がまだだったな。こちらは、鷹宮千鶴女王殿下だ」
「千鶴ですわ。お初にお目にかかります」

彼女は柔らかく微笑みながら、鈴を転がすような声で名乗った。
その声音はどこまでも丁寧で、上品で——だからこそ、逃げ場がない。

『暁お兄様』と呼ぶその親密な響き。
二人は一体、どのような月日を重ねてきたのだろう。
そんな醜い邪推が、頭の隅を掠める。

……いけない……!
眩しさに見惚れてしまい、挨拶が遅れた。

「……あ、朝霞すみれです。お、お初にお目にかかります……」

慌てて深々と頭を下げる。
すると背中に、暁臣様の大きな手がそっと添えられた。

その重みと温度が伝わってきただけで、爆発しそうだった緊張が、ほんの少しだけ凪いでいく。
——大丈夫、ここにいる。支えてくれている。
そう言われた気がして、胸の奥がじん、とした。

「あら。あなたのその瞳……『無華』ですのね!千鶴、本物を拝見するのは初めてですわ!」
「っ……」

悪意のない、純粋な好奇心に満ちた言葉。
けれどその一言で、ようやく和らぎかけていた緊張は一瞬で、何倍もの重圧となって私にのしかかった。

呼吸が浅くなる。
視界がちかちかと爆ぜ、耳の奥がきいんと鳴る。
私は袖の下で、己の指を白くなるほどぎゅっと握りしめた。

——見られる。
やっぱり、見られる。
この瞳は、私のすべてを暴く。

何も言えず石のように固まってしまった私の頬を、暁臣様の手が優しく包み込んだ。
瞳と瞳がぶつかる。

暁臣様の迷いのない眼差しは、一点の曇りもなく、私だけを映し出していた。

「美しい瞳だろう?左右で色が違う虹彩色……この世のどのような宝石を並べても、この輝きには及ばない」

言葉に、嘘は一切感じられない。
頬に触れる手の熱。
背中を支える確かな掌。
それだけを頼りに、私はどうにか背筋を伸ばし、顔を上げ続けることができた。

「……ふーん。そんなことより暁お兄様!広間には千鶴がご案内いたしますわ!」