【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

「……すみれ?」

名を呼ばれただけで、心臓が跳ねる。
顔を上げなきゃ、と分かっているのに、視線が迷子になる。

その時——。

「ひゃっ……!」
「すまない。……今日は珍しく髪を上げているからな」

首筋に、暁臣様のしなやかな指先が触れた。
手袋越しではない熱が、そこだけ小さな火になったみたいに広がっていく。

「うなじが涼しげだ。……とても、よく似合っている」

耳元で囁かれた低く甘い声に、胸の中が一気に騒がしくなる。
さっきまで、髪を上げたせいで心細かった首筋が、今はもう熱くてたまらない。

どうしよう……。
必死に暗記してきた作法が、暁臣様の一言で全部吹き飛んでしまいそうだ。

けれど、そんな私の内心を余所に、暁臣様はいつものように優しく手を取ってくださる。
その掌の温度に導かれるまま、榊原様の運転する車の後部座席へ。

乗り込む直前、暁臣様が私の指をそっと握り直した。
『大丈夫』と言葉にされなくても、そこにあるのは確かな支えで——胸の奥がじん、と温かくなる。