【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

いつか、すみれの真の価値……あらゆる『異能』を無効化する、その力が世に知られることになったら。
五条と言う家名も、宮家と言う俺の権威だけでは、彼女を守り切れないかもしれない。
奪われる。狙われる。利用される。
その想像だけで、喉の奥が熱くなる。

可能な限り、あらゆる脅威から彼女を遠ざけ、守ると決めている。
それでも、彼女自身が少しでも自分で判断できる、知識と自信と言う名の『戦う術』を身につけることが、彼女を守る盾になるのなら……。
痛みを伴う道でも、選ばせるしかない。

「喜ばしいことなのに、少し複雑だな」
「え……?」
「いや。こちらの話だ。気にするな」

俺は話題を切り替えるように、そっと手を差し出す。

「すみれ。手を」
「……はい」

白く、華奢な手を取る。
あの薄暗い蔵から連れ出した時に比べて、痛々しかった皸は消え、骨と皮ばかりだった指先は、本来の瑞々しい柔らかさと艶を取り戻している。
それでもまだ、守りきれていないものがある。
彼女の奥の奥に残る、怯えの芯。

すみれが俺に寄せる純粋な慕情は、きっと俺が彼女に抱く焦がれるような情愛とは、まだ種類が違う。
彼女はいわば、暗闇の中でようやく芽吹いたばかりの蕾だ。
親鳥に無邪気に懐く、雛鳥のようなものなのだろう。

頬を染め、所在なげに照れるその表情は、何よりも愛らしく俺の心を揺さぶる。
この無防備な顔を見せるのは俺の前だけだと、言い聞かせるように心の中で繰り返す。
胸の奥で燻るわずかな嫉妬を、どうにかして押し殺しながら。

いつか、この渇望が報われ、彼女の心のすべてが俺で塗り潰される日を——
願わずにはいられなかった。