【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

すみれは今日、無事に一日を終えられただろうか。

『教育とは別に、日常の中にすみれ様の『過去』を知る方を置かれるのがよろしいかと存じます』

藤波の冷静な助言を受け、朝霞家の内情を洗う過程で見つけ出した信子殿を呼び寄せることにした。
彼女は朝霞家と言う地獄において、唯一すみれに慈悲をかけた人物だ。
護衛の侍従からは本日の様子について『良好』との報告を受けてはいる。
だが、この眼で直接すみれの顔色を見、声を聞き、息遣いを確かめるまでは、安心することはできない。
——いや、安心したいだけではない。会いたいのだ。

「榊原。もう少しスピードを出せ」
「無理ですねぇ~」
「……ちっ」

いつもは沈着冷静で頼りになる榊原の慎重な運転が、今日に限ってはもどかしく感じられる。
俺は焦っている。みっともないほどに。

四度目の授業の後、すみれが倒れたと聞いた時は肝を冷やした。
本来なら寄り添い、一番にその迷いを取り除いてやらねばならないはずの俺が、いまだにすみれの全幅の信頼を得られていない事実に苛立ち、あろうことか彼女を怯えさせてしまった。
合わせる顔がなく、己の未熟さゆえに思わず彼女を避けた。

だが——壁一枚向こう側にいるすみれの気配を感じるたびに、胸が掻き乱された。
心配などと言う簡単な言葉では足りない。
ただ俺が、彼女に会いたくて仕方がなかったのだと、ひどく長く虚しい時間の中で何度も思い知らされただけだ。
近いのに遠い。触れられるのに、触れに行けない。
俺が作った距離だと言うのが、なおさら腹立たしかった。

「おかえりなさいませ!暁臣様!」
「っ……あぁ。ただいま、すみれ」

邸に足を踏み入れるなり、はち切れんばかりの満開の笑顔で出迎えられた。
息を呑む。
笑っている。ちゃんと、笑えている。
それだけで、胸の奥の硬いものが少し崩れる。

夕食の席でも、彼女は終始楽しげに言葉を紡いでいる。
こんなに饒舌に、瞳を輝かせて話をするすみれを見るのは、出会ってから初めてのことだった。
言葉が途切れることなく、話し続ける。