【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

誰かをもてなすと言うことの、身の引き締まるような難しさ。
そして、喜んでもらえた時の、心が弾むような嬉しさ。
深く溜め込んでいた息を吐き出し、ほっと胸を撫で下ろした。
『できた』と感じた瞬間、世界が少しだけ明るくなる。

「所で……私は今日、どのようなご授業をしたらよろしいのでしょうか?」
「え……?あ、あの……申し訳ございません。私も、暁臣様から何も伺っていなくて……」
「まあ、そうなんですのね。ふふ、どうしましょうか」

あまりの再会の喜びに、すっかり『授業』の内容を考えるのを忘れていた。
暁臣様に事前にお聞きしておくべきだった。
どうしよう。私の不手際のせいで、信子さんが暁臣様からお叱りを受けるようなことがあったら——。

けれど、信子さんは困ったふうに笑いながら、私の表情を覗き込むように首を傾げた。

「すみれお嬢様が嫌でなければ、今日はお喋りの日にしませんか?」
「……お喋り……ですか?」
「はい。次回の授業で何をするか、二人で相談するための、大切なお喋りです」

お喋り……?
思い返せば、私は暁臣様とさえ、まともな『お喋り』をしたことがないかもしれない。
いつも黙ってお話を伺うか、問われたことに拙く応えるばかり。
私のたわいもない話を聞きたい人なんて、この世にいるはずがない。
ずっと、そう思い込んで生きてきたから。
——聞いてもらう、と言う発想すらなかった。

「あの……私、あまり上手く喋れないかもしれないのですけれど……」
「大丈夫ですよ。まずは、私の昨日あった出来事から聞いてくださいますか?」
「はい……っ、ぜひ、聞きたいです!」

信子さんの穏やかな声に導かれ、私の強張っていた心が、少しずつ解けていく。
『教わる』のではなく『話す』。
正解を求められるのではなく、ただ隣に座って、言葉を交わす。

それは、私にとってどんな言葉よりも、優しい魔法のように感じられた。