【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

どちらも思い出すたびに、胸の奥へ鋭い棘が刺さるような、息が止まるほどの痛みを伴う。
愛情の形を知らずに育ったこんな私が、いつか誰かの『母』になることなんて、本当にできるのだろうか。
『無華』である私のもとに生まれた子は、果たして幸せになれるのだろうか。

子どもとの正しい触れ合い方なんて、今の私には想像すら及ばない。
母になるための道のりは——今受けているどんな厳しいお妃教育よりも、ずっと険しく、正解のない難問のように思えて仕方がない。
それでも、胸の奥のどこかで小さく願ってしまう。
もし、暁臣様となら。もし、暁臣様が——私の手を、離さないでいてくれるのなら。

信子さんとお子さんたちが帰り、賑やかだった邸に静寂が戻った後。
ひどく気が抜けてしまい、照明をつけるのも忘れて、ぼんやりとベッドの端に腰掛けたまま、窓の外に広がる夕闇を眺めていた。
空の色が、茜から紫へ、紫から藍へ——ゆっくり沈んでいく。
それだけを見ていれば、胸の中のざわめきも一緒に沈む気がした。

「どうした、すみれ。こんな暗がりで、電気もつけずに」
「……っ、暁臣様……」

いつの間にかお部屋へ入ってこられた暁臣様に、まったく気づかなかった。
驚いて振り向くと、軍服ではなく、くつろいだ装いのまま——
それでも背筋の伸びた影が、部屋の暗さに溶けるように立っている。

「申し訳ありません……お出迎えもできずに」
「気にするな。今日は信子殿が家族を連れて来たと聞いていたが……少し疲れが出たか?子どもの相手は骨が折れるからな」
「いいえ、そんな。……とても、楽しい時間を過ごすことができました」
「ならよかった。すみれが笑って過ごせたのなら、それが一番だ」

責めるどころか、暁臣様は私の隣に静かに腰を下ろし、指先でそっと頬を撫でてくれた。
その温度に触れただけで、胸の奥に溜まっていた恐怖が、春の雪解けみたいにほどけていく。
……怖かったのだ。笑っている間も、どこかでずっと。

宮家の嫡男であり、高貴なお血筋の暁臣様。
いずれは家を継ぎ、正当な跡継ぎを求められる日が必ず来る。
さきほど信子さんの、幸福そのものみたいな親子の姿を見て感じた——あの得体の知れない感情。
胸が熱くなるのに、同時に冷えていく、あれはなんだったのだろう。
思い出したくないのに、未来を思い描いた途端、過去の影が伸びてきて、私の足首を掴む。

それでも、暁臣様の指先が頬に触れている間だけは、私はちゃんと呼吸ができた。

母の愛を知らず、『無華』と言う欠陥を抱えた私に、その重責が果たせるのか。
できるはずがない、と言ってしまえば楽なのに。
けれど——この『無華』の証である異質な瞳を、初めて『美しい』と仰ってくれたあの時から、私の心はもう引き返せなくなっていたのかもしれない。

「暁臣様……。私、暁臣様が好きなんです。……ずっと、ずっとお側にいたいんです」
「……すみれ?」