【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

煌びやかなシャンデリアの照明に照らし出された空間には、芸術品のような料理と琥珀色の飲み物が所狭しと並んでいる。
この場に集うのは、宮家に連なる高貴な方々か、国政を担う重職の高官ばかり。
その圧倒的な存在感に、立っているだけで呼吸が浅くなる。
耳に入る笑っている声さえ、遠い。

「すみれお嬢様。少しはお顔の色が戻られましたね。何かお食事を取ってまいりましょうか?」
「いえ……今はまだ、何か食べられる気がしなくて。冷たい飲み物だけ、お願いしてもよろしいですか?」
「かしこまりました。すぐにお持ちしますね。ここで動かずにお待ちください」

信子さんが離れた後。
大勢の方々が華やかに歓談する人混みの中で、私の視線は無意識のうちに暁臣様のお姿を追いかけてしまう。
お母様やお姉様のように洗練された立ち振舞いもできず、かといって背景の一部として壁の花になりきることもできない。
ただそこに立っているだけなのに、自分の居場所がどこにもないような感覚が、胸を押した。

けれど——かつての園遊会の時のように、ただ暁臣様の腕に縋りつき、隠れるだけの自分ではなくなっている。
恐ろしくて地面だけを見つめ、俯いたまま固まっていた時間は、ほんの少しだけれど、減った。
私は今、ちゃんと立っている。暁臣様が、そうさせてくださった。

窓の外に広がる冬の空が、茜色から藍色へと沈みかけた頃。
儀式を終えた車が長い行列を作り、賓客たちが次々と乗り込んでいく。
それを見つめながら、私は次に訪れる『何か』を、胸の奥で予感していた。

「信子殿。今日は早朝からすみれに付き添ってくれて、本当に助かった。感謝する」
「信子さん、本当に……ありがとうございました」
「本来なら自宅まで送りたい所だが、すみれをそろそろ休ませてやりたい。別の車を用意させたので、そちらで帰宅してもらって構わないだろうか?」
「もちろんでございます。殿下、お気遣いなく」

疲れが限界に近いことを、暁臣様にはすべて見透かされていた。
園遊会の時のように倒れることはない——そう思っていたのに、身体が少し重い。足の先まで鉛でも詰まったみたいだ。

「良ければ、これをご家族で食べてくれ」

暁臣様はそう言いながら、四角く風呂敷で丁寧に包まれた箱のようなものを、信子さんに差し出した。
それは昨年、元旦に私のために持ち帰ってくれたのと同じ——。
視線が、勝手にそこへ吸い寄せられてしまう。

「ん?心配するな。すみれの分の御節も、用意させてある」