周囲に満ちる大勢の人々のざわめきと、香水の入り混じった高貴な香りに気圧されながら、暁臣様に導かれて控室へ向かう。
視線が、刺さる。——見られている、比べられている、値踏みされている。
そう思うほど、背中が冷えていった。
「……ここから先は、控室が別々になる。……大丈夫か?」
「え……」
「中には母上と姉上がおられる。信子殿、すみれを頼む」
「はい。お任せくださいませ、殿下」
暁臣様の背中が遠ざかっていくにつれ、足元からじわじわと暗い気持ちが這い上がってくる。
いけない、しっかりしなくては……。
これから先、こうした場面は幾度となく訪れるのだから。
私は自分に言い聞かせるように、精一杯背筋を伸ばした。
重い扉が開かれると、そこにはすでに暁臣様のお母様とお姉様のお姿があった。
一瞬だけ膝が笑い、中に入るのを躊躇ってしまう。
けれど、本番はこれからなのだ。ここで退いては、暁臣様の顔を泥で塗ることになる。
「……本日は、よろしくお願いいたします」
掠れるような声を押さえ込み、ゆっくりと、藤波様に教わった通りの角度でお二人に頭を下げた。
視界の端で、袖の松と梅が静かに揺れる。
自分の呼吸の音さえ、大きく感じた。
「その着物、とてもよく似合っていますよ」
「柄も色も、元旦にぴったりね」
婚約のご挨拶の時以来、久々の再会だったけれど、お二人の眼差しは記憶にあるよりもずっと柔らかかった。
勝手に緊張して、お二人に嫌われてしまったのではないかと勘ぐっていたけれど……それは私の独りよがりだったのかもしれない。
少しだけ強張っていた心が、その温かな言葉にほどけていく。
ほどけた隙間から、——『よく似合っている』と、今朝の暁臣様の声が蘇った。
小さく息を吸い、もう一度だけ、胸の奥で自分に言い聞かせる。
今日は、逃げない。暁臣様の隣に立つのだ、と。
視線が、刺さる。——見られている、比べられている、値踏みされている。
そう思うほど、背中が冷えていった。
「……ここから先は、控室が別々になる。……大丈夫か?」
「え……」
「中には母上と姉上がおられる。信子殿、すみれを頼む」
「はい。お任せくださいませ、殿下」
暁臣様の背中が遠ざかっていくにつれ、足元からじわじわと暗い気持ちが這い上がってくる。
いけない、しっかりしなくては……。
これから先、こうした場面は幾度となく訪れるのだから。
私は自分に言い聞かせるように、精一杯背筋を伸ばした。
重い扉が開かれると、そこにはすでに暁臣様のお母様とお姉様のお姿があった。
一瞬だけ膝が笑い、中に入るのを躊躇ってしまう。
けれど、本番はこれからなのだ。ここで退いては、暁臣様の顔を泥で塗ることになる。
「……本日は、よろしくお願いいたします」
掠れるような声を押さえ込み、ゆっくりと、藤波様に教わった通りの角度でお二人に頭を下げた。
視界の端で、袖の松と梅が静かに揺れる。
自分の呼吸の音さえ、大きく感じた。
「その着物、とてもよく似合っていますよ」
「柄も色も、元旦にぴったりね」
婚約のご挨拶の時以来、久々の再会だったけれど、お二人の眼差しは記憶にあるよりもずっと柔らかかった。
勝手に緊張して、お二人に嫌われてしまったのではないかと勘ぐっていたけれど……それは私の独りよがりだったのかもしれない。
少しだけ強張っていた心が、その温かな言葉にほどけていく。
ほどけた隙間から、——『よく似合っている』と、今朝の暁臣様の声が蘇った。
小さく息を吸い、もう一度だけ、胸の奥で自分に言い聞かせる。
今日は、逃げない。暁臣様の隣に立つのだ、と。



