【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

車窓の向こうには、まだ人影の少ない道を歩く姿がちらほらと通り過ぎていく。
やがて、威厳を放つ巨大な石造りの正門の前で、車は静かに停まった。

ここへ足を踏み入れるのは、今日で三度目になる。
緊張で暁臣様の腕に捕まることしかできなかった園遊会。
そして暁臣様が、私の婚約についてお話しするために陛下に呼ばれたあの日。

きっとこの国で一番厚く、立派な門が、重い音を立てて開かれる。
数台の高級車と共に、吸い込まれるように敷地内へ進んでいくたび、胸の奥がきゅっと縮んだ。

目的地が近づくにつれ、私の鼓動は早鐘を打ち始め、無意識のうちに暁臣様の手を強く、強く握り返してしまう。
すると暁臣様は、咎めるでもなく、ほんの少しだけ指に力を返してくださった。
——大丈夫だ、と言うみたいに。

「……千鶴も登城しているはずだが、控室も広間までの動線も、決して接触せぬよう手配は済ませてある」
「千鶴様……」
「信子殿も安心してほしい。万全を期している」
「はい。多大なるご配慮、心より感謝申し上げます」

千鶴様……。
その名を聞いた瞬間、胸の奥がズキリと疼いた。
彼女は心から暁臣様をお慕いしていたはずだ。
そして暁臣様にとっても、かつては大切な親戚の一人だったに違いない。
それを私の存在が壊してしまったのではないかと言う罪悪感が、新年の冷たい風のように心を吹き抜ける。

けれど同時に、暁臣様が『接触しない』ように動いてくださっている事実が、胸を締め付けた。
私を守るために、誰かを遠ざけている。
その重さを、意味を、私はきちんと受け止められるのだろうか。