階段を降りる私の気配に気づき、暁臣様が顔を上げた。
いつもは涼やかな切れ長の瞳が、一瞬、驚愕に大きく見開かれる。
息を呑む音が、静かなホールに小さく落ちた気がした。
「……驚いたな。どこの国の令嬢が迷い込んできたのかと思った」
「……っ、そんな……。からかわないでください」
「冗談ではない」
暁臣様は一歩こちらへ近づき、視線で私を確かめるように、ゆっくりと見上げてくる。
その眼差しが、あまりに真剣で——心臓が跳ねた。
「あまりの美しさに、今日一日、誰の目にも触れさせたくなくなってしまった」
あれほど藤波様に厳しく指導されたのに、耳元で囁かれる甘い言葉に、思わず顔を伏せてしまう。
駄目だ。ここで赤くなっている場合ではないのに……熱が頬へ集まっていくのがわかる。
「……いこうか、すみれ」
差し伸べられた暁臣様の手を、恐る恐る取る。
手袋越しでも、掌の大きさと確かさが伝わってきて、指先の震えが少しだけ落ち着いた。
扉が開かれた瞬間、冬の澄み渡った朝の光が眩しく飛び込んでくる。
冷たくも清らかな空気が、新しい年——そして新しい私たちの幕開けを告げているようだった。
そんな、美しくも静かな朝だった。
澄み渡った冬の空気の中を、黒塗りの車が滑るように走る。
私の緊張を解きほぐすように、暁臣様はずっと大きな手で私の手を包み込んでくれていた。
指を絡めるでもなく、ただ覆うだけの優しさ。
けれど、それだけで私は——いま自分がどこにいるのかを忘れずにいられる。
繋がれた手の温もりだけが、私を現実の世界へ繋ぎ止めていた。
いつもは涼やかな切れ長の瞳が、一瞬、驚愕に大きく見開かれる。
息を呑む音が、静かなホールに小さく落ちた気がした。
「……驚いたな。どこの国の令嬢が迷い込んできたのかと思った」
「……っ、そんな……。からかわないでください」
「冗談ではない」
暁臣様は一歩こちらへ近づき、視線で私を確かめるように、ゆっくりと見上げてくる。
その眼差しが、あまりに真剣で——心臓が跳ねた。
「あまりの美しさに、今日一日、誰の目にも触れさせたくなくなってしまった」
あれほど藤波様に厳しく指導されたのに、耳元で囁かれる甘い言葉に、思わず顔を伏せてしまう。
駄目だ。ここで赤くなっている場合ではないのに……熱が頬へ集まっていくのがわかる。
「……いこうか、すみれ」
差し伸べられた暁臣様の手を、恐る恐る取る。
手袋越しでも、掌の大きさと確かさが伝わってきて、指先の震えが少しだけ落ち着いた。
扉が開かれた瞬間、冬の澄み渡った朝の光が眩しく飛び込んでくる。
冷たくも清らかな空気が、新しい年——そして新しい私たちの幕開けを告げているようだった。
そんな、美しくも静かな朝だった。
澄み渡った冬の空気の中を、黒塗りの車が滑るように走る。
私の緊張を解きほぐすように、暁臣様はずっと大きな手で私の手を包み込んでくれていた。
指を絡めるでもなく、ただ覆うだけの優しさ。
けれど、それだけで私は——いま自分がどこにいるのかを忘れずにいられる。
繋がれた手の温もりだけが、私を現実の世界へ繋ぎ止めていた。



