……思ったより、ずっと甘いな。
「今夜のケーキは、今まで食べたどの菓子より美味い」
「本当、ですか……!?良かった……!」
俺の言葉に弾かれるように、すみれも自分の皿へ視線を落とし、そっと口に運ぶ。
甘美さにふわりと口元が綻び、その表情だけで、喉を通った砂糖の甘さ以上の熱が胸の奥まで満ちていく。
「あの、暁臣様。実は……もう一つ、プレゼントもあるんです」
「プレゼント?まだ何かあるのか」
すみれはケーキの余韻を惜しむように席を立ち、机の引き出しを開ける。
抱えて戻ってきた小箱を見て、先日『信子殿と買い物に』と言い出した理由がようやく腑に落ちた。
「……受け取って、いただけますか?」
壊れ物を差し出すような、遠慮がちな仕草。
「開けても構わないか」
「はい。あの……暁臣様にいただいた大切なお金で、買ったものなんですけれど……」
「あれはすみれに渡した金だ。用途は好きにしていいと言っただろう」
「……ありがとうございます」
結ばれたリボンを解き、蓋を開ける。
中から現れたのは、革製の手帳。
手に馴染む大きさ。機能性を重視した実直な造り。
華美な装飾はないが、革の質、縫製の細かさ——一流の職人の仕事だとすぐわかる。
「使うほど……色が深く、綺麗に変わるそうで。お仕事でも、学校の時でも……お使いになれたらいいな、と思って選びました」
「……困ったな。すみれから初めての贈り物だと思うと、使うのがもったいなくなる」
「えっ、そ、そんな……!できれば……毎日、持ち歩いてもらえると嬉しくて……」
「ふっ、冗談だ。ありがとう、すみれ。肌身離さず、大切に使わせてもらう」
告げると、すみれは苺より鮮やかな赤に頬を染め、はにかむように笑った。
すみれには、何不自由ない暮らしができるだけの金を渡している。
その中から彼女が選んだ使い道が、俺への贈り物と祝いのケーキ、そして信子殿への感謝の品。
自分の贅沢ではなく、先に『誰かのため』を選ぶ——その利他的な選択は、あまりに、すみれらしい。
無欲で、健気で、危ういほどに。
「すみれ。……おいで」
椅子に座ったまま両腕を広げて見せると、すみれの肩が小さく跳ねた。
だがすぐに、視線を伏せたまま吸い寄せられるように近づいてくる。
細い手首を引けば、彼女はそっと、待っていた場所——俺の腕の中に収まった。
今はまだ、他人のためにばかり心を使う彼女だ。
だがいつか、本当に自分のために考え、自分の欲するものを『ほしい』と口にする日が来るだろう。
その時、彼女は何を選ぶのか。何を望むのか。
——その日が来ることを、これほどまでに愉しみにしている自分がいた。
「今夜のケーキは、今まで食べたどの菓子より美味い」
「本当、ですか……!?良かった……!」
俺の言葉に弾かれるように、すみれも自分の皿へ視線を落とし、そっと口に運ぶ。
甘美さにふわりと口元が綻び、その表情だけで、喉を通った砂糖の甘さ以上の熱が胸の奥まで満ちていく。
「あの、暁臣様。実は……もう一つ、プレゼントもあるんです」
「プレゼント?まだ何かあるのか」
すみれはケーキの余韻を惜しむように席を立ち、机の引き出しを開ける。
抱えて戻ってきた小箱を見て、先日『信子殿と買い物に』と言い出した理由がようやく腑に落ちた。
「……受け取って、いただけますか?」
壊れ物を差し出すような、遠慮がちな仕草。
「開けても構わないか」
「はい。あの……暁臣様にいただいた大切なお金で、買ったものなんですけれど……」
「あれはすみれに渡した金だ。用途は好きにしていいと言っただろう」
「……ありがとうございます」
結ばれたリボンを解き、蓋を開ける。
中から現れたのは、革製の手帳。
手に馴染む大きさ。機能性を重視した実直な造り。
華美な装飾はないが、革の質、縫製の細かさ——一流の職人の仕事だとすぐわかる。
「使うほど……色が深く、綺麗に変わるそうで。お仕事でも、学校の時でも……お使いになれたらいいな、と思って選びました」
「……困ったな。すみれから初めての贈り物だと思うと、使うのがもったいなくなる」
「えっ、そ、そんな……!できれば……毎日、持ち歩いてもらえると嬉しくて……」
「ふっ、冗談だ。ありがとう、すみれ。肌身離さず、大切に使わせてもらう」
告げると、すみれは苺より鮮やかな赤に頬を染め、はにかむように笑った。
すみれには、何不自由ない暮らしができるだけの金を渡している。
その中から彼女が選んだ使い道が、俺への贈り物と祝いのケーキ、そして信子殿への感謝の品。
自分の贅沢ではなく、先に『誰かのため』を選ぶ——その利他的な選択は、あまりに、すみれらしい。
無欲で、健気で、危ういほどに。
「すみれ。……おいで」
椅子に座ったまま両腕を広げて見せると、すみれの肩が小さく跳ねた。
だがすぐに、視線を伏せたまま吸い寄せられるように近づいてくる。
細い手首を引けば、彼女はそっと、待っていた場所——俺の腕の中に収まった。
今はまだ、他人のためにばかり心を使う彼女だ。
だがいつか、本当に自分のために考え、自分の欲するものを『ほしい』と口にする日が来るだろう。
その時、彼女は何を選ぶのか。何を望むのか。
——その日が来ることを、これほどまでに愉しみにしている自分がいた。



