【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

邸に帰宅した瞬間から、すみれの様子が明らかにおかしい。

嘘を吐くことも、隠し事をすることもできない——あまりに無垢な気性の彼女だ。
時折、何かを決心したように瞳をきゅっと閉じたかと思えば、次の瞬間には泳ぐような視線で室内をそわそわと見回す。
その挙動不審な姿は、隠した木の実の場所を忘れたリスのようで、見ていて飽きることがない。

「あ、あの!暁臣様、その……今は、甘いものなどは食べたくありませんか?」
「いや、特に。……何か食べたいのか?」
「え……あ、い、いえ!そういうわけではございません……っ」

甘味を食べたくて落ち着かないのかと思ったが、どうやら違うらしい。
すみれの煌めく虹彩色の瞳が、困惑と焦りで揺れる。
そのたびに、息を呑むほど美しいと思ってしまう自分がいる。

「遠慮する必要はない。和菓子がいいか?確か貰い物の洋菓子もいくつかあった。用意させよう」
「あぁぁ……違うんです。そうじゃないんです……」

困り果てて顔を伏せるのも、すみれらしい。
だが俺が椅子から立ち上がろうとした途端、焦った彼女に縋られるような力で腕を掴まれた。細い指が、必死にしがみついてくる。

「あ、あの……」
「ん?」
「……暁臣様。お誕生日……おめでとうございます」

誕生日?
あまりに予想だにしない言葉がすみれの口から飛び出し、柄にもなく虚を突かれてしまった。

「……俺の誕生日を、知っていたのか?」
「はい。それで……あの、ケーキを用意してあるんです。……ご一緒に、食べていただけませんか?今から持ってきても、よろしいでしょうか」
「そうか。……ああ、共に頂こうか」

許可を出した瞬間、先ほどまでの怯えるような表情が一変した。
ぱっと大輪の花が開いたような笑顔。
嬉しさを隠しきれないといった様子で、ぱたぱたと軽い足取りで部屋を飛び出していく。

——自分の意志で、俺を祝いたいと願った。
内緒で、ケーキまで用意した。
少しずつ『やりたいこと』を見つけ、自分なりの意志を持って行動できるようになった。
その成長が、何よりも胸を満たす。