【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

「あの……この真ん中の札には、何が書いてあるんでしょうか?」
「お店の方が特別に添えてくださったんですよ。これは『Happy Birthday』と書いてあります」
「はっぴー、ばーすでー……。えいご、ですよね?」
「ええ。異国の言葉で『お誕生日おめでとう』と言う意味です」

札に書かれた流麗な文字を、まじまじと見つめる。
今はまだ、日々の漢字を覚えるだけで精一杯。
けれど——いつか私も、こんな風に美しい異国の文字を、当たり前のように綴れるようになるのだろうか。

箱から漂う、甘く幸福な砂糖の香り。
今夜、暁臣様と過ごす時間は、このケーキと同じくらい甘く、蕩けるようなひと時になりそうな——そんな予感がして、胸の奥がトクン、と跳ねた。

「ふふ。なんだか、とっても嬉しそうですわね、お嬢様」
「えっ。そ、そうでしょうか……?」
「ええ。すみれお嬢様は、日に日に可愛らしく、大人の女性になられておられます」
「——っ!?」

……そんな。
本当に、信子さんの目にはそう映っているのだろうか。

きっと、私を励ますためのお世辞だ。
そう思うのに、頬の熱は嘘をつかない。
たまらなく気恥ずかしくなって、熱を帯びた頬を思わず両手で覆い隠してしまった。

大人の、女性……?私が?
その言葉が胸の中で転がって、落ち着かなくなる。
『暁臣様に贈り物をする』ただそれだけのことで、こんなにも心臓が忙しいなんて。

空が燃えるような夕暮れから、深い藍色へと溶け込んでいく頃。
信子さんと入れ替わるようにして、暁臣様が帰宅された。

一生懸命選んだプレゼント。
そして特別なケーキ。
手渡した瞬間、あの端正な顔立ちが、どんな風に綻ぶのだろう。

暁臣様。
私、あなたがくださった大切なお金で、初めて自分でお買い物をしたんです。
初めて、誰かに誕生日プレゼントをお渡しするんです——。