【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

声が震え、堪えきれず瞳の奥が熱くなる。
こぼれそうになる涙を誤魔化すように瞬きを繰り返すと、暁臣様の指先がそっと目尻をなぞり、落ちかけた雫を拭った。

「……泣くな。すみれが怯える顔は、もう見たくない」
「でも……私が、百合の人生を……」
「お前は奪うために生きてきたわけじゃない。お前は、ただ生き延びてきた」

その言葉が胸に刺さって、痛いのに、少しだけ救われた。

胸の奥の結び目が、少しだけほどける。
けれど、安心した瞬間に、別の感情が顔を出す。

千鶴様の邸で、暁臣様が扉を破壊した時。
周囲の人々は、その圧倒的な破壊の力を秘めた暁臣様の掌を、恐ろしい物を見るような目で怯えながら見つめていた。

『よほど人の『華』が羨ましかったのね。本当に卑しいったらないわ』

百合の吐き捨てた言葉が、呪いのように頭の中で反芻される。
彼女の言う通りだ。私はなんて、浅ましくて醜い女なのだろう。

もし——もし、私が暁臣様の『黒薔薇』を完全に奪い去ってしまったら。
この方は普通の人間になり、誰もがこの掌に怯えず触れられるようになるだろう。

けれど今、この瞬間だけは。
『黒薔薇』を宿したままの彼の掌に触れられるのは、世界で私一人だけ。

恐ろしい独占欲と、濁った嫉妬心。
暁臣様の、孤独な特別さを——自分だけが共有していたいと願う。
こんなにも歪んだ、おぞましい感情を抱いてしまったなんて……。

もし暁臣様に知られたら、今度こそ軽蔑されてしまうかもしれない。
その恐怖を抱えながら、私は彼の手を、祈るように、より強く握り返すことしかできなかった。