「どうした、すみれ。……顔が真っ青だぞ」
「あ……いえ……」
邸に着くと、暁臣様はすでに帰宅されていて、心配そうに出迎えてくださった。
出かける前、私はあんなに胸を躍らせていたのに。
暁臣様も、私を快く送り出してくださったのに。
——ただいまと言うだけで、胸が詰まってしまう。
「すみれお嬢様。本日は、私はこのまま失礼いたしますね」
「あ……待ってください、信子さん」
別れ際、私ははっとして、袂に忍ばせていたもう一つの包みを思い出した。
今、これをお渡ししなければ。
『今日』のうちに形にしなければ、私はまた言葉を飲み込み、逃げてしまう。
「あの……信子さん。これ、先ほど百貨店で……その、選ばせていただいたんです。受け取っていただけますか?」
「私に、ですか?」
「はい。信子さんに、きっとお似合いだと思って。……水仙が描かれた、小さな帯留めです」
「水仙、ですか……?」
今日、どれほどの迷惑をかけてしまったか。
こんな小さな贈り物一つで、帳消しにできるはずがない。
しかも暁臣様にいただいたお金で買ったものだ。
それでも——ほんの少しでも、感謝と謝罪を形にしたかった。
これを見つけた時、視線の先で、少し離れて見守ってくれる、信子さんにとてもお似合いだと思った。
私が『ここにいていい』と許された時間の重みを、信子さんに伝えたかった。
「……ありがとうございます。とても嬉しいです。次にお伺いする時、早速使わせていただきますね」
「次……」
「はい。また、来週お伺いしますわ。楽しみにしております」
こんなことがあっても、信子さんは『また来週』と微笑んでくださる。
その笑みが、胸の奥の硬い塊を少しだけ溶かした。
私は車に乗って去っていく信子さんを、その姿が闇に溶けて見えなくなるまで見送り、重い足取りで邸の中へ戻った。
「あ……いえ……」
邸に着くと、暁臣様はすでに帰宅されていて、心配そうに出迎えてくださった。
出かける前、私はあんなに胸を躍らせていたのに。
暁臣様も、私を快く送り出してくださったのに。
——ただいまと言うだけで、胸が詰まってしまう。
「すみれお嬢様。本日は、私はこのまま失礼いたしますね」
「あ……待ってください、信子さん」
別れ際、私ははっとして、袂に忍ばせていたもう一つの包みを思い出した。
今、これをお渡ししなければ。
『今日』のうちに形にしなければ、私はまた言葉を飲み込み、逃げてしまう。
「あの……信子さん。これ、先ほど百貨店で……その、選ばせていただいたんです。受け取っていただけますか?」
「私に、ですか?」
「はい。信子さんに、きっとお似合いだと思って。……水仙が描かれた、小さな帯留めです」
「水仙、ですか……?」
今日、どれほどの迷惑をかけてしまったか。
こんな小さな贈り物一つで、帳消しにできるはずがない。
しかも暁臣様にいただいたお金で買ったものだ。
それでも——ほんの少しでも、感謝と謝罪を形にしたかった。
これを見つけた時、視線の先で、少し離れて見守ってくれる、信子さんにとてもお似合いだと思った。
私が『ここにいていい』と許された時間の重みを、信子さんに伝えたかった。
「……ありがとうございます。とても嬉しいです。次にお伺いする時、早速使わせていただきますね」
「次……」
「はい。また、来週お伺いしますわ。楽しみにしております」
こんなことがあっても、信子さんは『また来週』と微笑んでくださる。
その笑みが、胸の奥の硬い塊を少しだけ溶かした。
私は車に乗って去っていく信子さんを、その姿が闇に溶けて見えなくなるまで見送り、重い足取りで邸の中へ戻った。



