次の階へ進むと、そこは革の香りが漂うフロアだった。
時計、鞄、手袋、財布……。
どれも使い込まれることを前提とした上質な品ばかりで、近寄るのさえ気後れしてしまう。
それでも私は、暁臣様の顔を思い浮かべて、ゆっくりと一歩を踏み出した。
「……あ」
ふと、棚の端に置かれた一冊に、私の目が釘付けになった。
視線だけが、そこへ吸い寄せられていく。
深い深緑に近い、濃い茶色の革手帳。
派手な艶はなく、これ見よがしな装飾も一切ない。
静かで、潔い。——それなのに、確かな存在感があった。
導かれるように手に取ると、指先に吸い付くようにしっとりと馴染む。
革が、まるで『持つべき手』を知っているみたいに落ち着いた。
「お目が高いですね。そちら、舶来の牛革を贅沢に使ったもので、持ち主が使い込むほどに色が深まり、独特の風合いに育つお品ですよ」
店員さんの言葉が、ストン、と胸に落ちる。
お邸のご様子を考えると、暁臣様は舶来の物を好まれるような気もする。
何より『育つ』——と言う言葉。
暁臣様は、学校とお仕事でいつもお忙しそうで。
張り詰めた執務の手元に、年月をかけて育っていくこの手帳があったら。
膨大な書類に目を通し、五条家として重い決断を幾度も重ねていくその日々に——寄り添える気がした。
贈り物は、華やかで目を引くものだけがよいわけではない。
使うたびに、持ち主の時間が刻まれていくもの。
暁臣様の『今日』と『明日』に、そっと並んでいられるもの。
「……これなら、無駄には……ならないでしょうか」
「ええ。流行に左右されない、一生ものだと思いますわ」
時計、鞄、手袋、財布……。
どれも使い込まれることを前提とした上質な品ばかりで、近寄るのさえ気後れしてしまう。
それでも私は、暁臣様の顔を思い浮かべて、ゆっくりと一歩を踏み出した。
「……あ」
ふと、棚の端に置かれた一冊に、私の目が釘付けになった。
視線だけが、そこへ吸い寄せられていく。
深い深緑に近い、濃い茶色の革手帳。
派手な艶はなく、これ見よがしな装飾も一切ない。
静かで、潔い。——それなのに、確かな存在感があった。
導かれるように手に取ると、指先に吸い付くようにしっとりと馴染む。
革が、まるで『持つべき手』を知っているみたいに落ち着いた。
「お目が高いですね。そちら、舶来の牛革を贅沢に使ったもので、持ち主が使い込むほどに色が深まり、独特の風合いに育つお品ですよ」
店員さんの言葉が、ストン、と胸に落ちる。
お邸のご様子を考えると、暁臣様は舶来の物を好まれるような気もする。
何より『育つ』——と言う言葉。
暁臣様は、学校とお仕事でいつもお忙しそうで。
張り詰めた執務の手元に、年月をかけて育っていくこの手帳があったら。
膨大な書類に目を通し、五条家として重い決断を幾度も重ねていくその日々に——寄り添える気がした。
贈り物は、華やかで目を引くものだけがよいわけではない。
使うたびに、持ち主の時間が刻まれていくもの。
暁臣様の『今日』と『明日』に、そっと並んでいられるもの。
「……これなら、無駄には……ならないでしょうか」
「ええ。流行に左右されない、一生ものだと思いますわ」



