エントランスに掲げられた大きな案内板を見上げる。
けれど……そこに並ぶ細かな文字の半分以上が、まだ読めない。
できることが増えたと思っていたのは、私のうぬぼれだったのかもしれない。
現実は、まだこんなにも遠い。
一歩進んだと思ったのに……まだまだ自分の足りなさを突きつけられる。
「すみれお嬢様。本日は何をお買い求めになりたいんですか?」
「あの……実は、暁臣様のお誕生日プレゼントを……選ばせていただきたくて」
「まぁ!なんて素敵な。きっと殿下もお喜びになりますよ!」
信子さんの弾んだ声に、気恥ずかしさと嬉しさが混ざり合う。
けれど、立ち止まって文字を見つめる私の顔は、自然と曇ってしまった。
『贈りたい』と言う気持ちだけは誰にも負けないのに、肝心の入口で立ち尽くしてしまう。
「……あの、すみません。字が、まだ全然読めなくて。どの階に行けばいいのか……」
「大丈夫ですよ、お嬢様。お手伝いしますから、ゆっくり上の階から見て回りましょうか」
「はい。……お願いします」
信子さんの言葉に、胸の奥がふっと軽くなる。
私はまだ、助けてもらっていいのだ。恥ずかしがらなくていいのだ。
信子さんと並び、色とりどりの商品が並ぶ、魔法のようなフロアへと足を踏み出した。
信子さんに促され、絨毯の敷かれた階段を一歩ずつ上る。
外の喧騒が嘘のように、百貨店の中は煌びやかな空気と、香水の香りに包まれていた。
足音が吸い込まれるような静けさと、冬を先取りしたような暖かな空気。
どこか浮世離れした心地よさに、私は少しだけ肩の力を抜く。
最初に目に入ったのは、舶来の文房具が整然と並ぶ一角だった。
磨き上げられたガラス越しに、万年筆や琥珀色のインク壺が宝石のように並んでいる。
軸の色も、施された金の装飾も、ため息が出るほど繊細で綺麗——なのに。
……どれも、暁臣様のお部屋で見かけたことがあるものばかりだ。
『上等』と言うだけでは、彼には届かない。
そう思うと、急に自分の選択が怖くなった。
あのようなお邸に住まわれている暁臣様に、何を贈ればいいのだろう。
途端に、迷い子が深い霧の中に迷い込んだような心細さが襲ってくる。
そっと値札に目を向けると、ただの数字なのに、冷たく私を突き放しているような気がして、慌てて視線を逸らした。
こんな額のものを、私は本当に『選んでいい』のだろうか、と。
けれど……そこに並ぶ細かな文字の半分以上が、まだ読めない。
できることが増えたと思っていたのは、私のうぬぼれだったのかもしれない。
現実は、まだこんなにも遠い。
一歩進んだと思ったのに……まだまだ自分の足りなさを突きつけられる。
「すみれお嬢様。本日は何をお買い求めになりたいんですか?」
「あの……実は、暁臣様のお誕生日プレゼントを……選ばせていただきたくて」
「まぁ!なんて素敵な。きっと殿下もお喜びになりますよ!」
信子さんの弾んだ声に、気恥ずかしさと嬉しさが混ざり合う。
けれど、立ち止まって文字を見つめる私の顔は、自然と曇ってしまった。
『贈りたい』と言う気持ちだけは誰にも負けないのに、肝心の入口で立ち尽くしてしまう。
「……あの、すみません。字が、まだ全然読めなくて。どの階に行けばいいのか……」
「大丈夫ですよ、お嬢様。お手伝いしますから、ゆっくり上の階から見て回りましょうか」
「はい。……お願いします」
信子さんの言葉に、胸の奥がふっと軽くなる。
私はまだ、助けてもらっていいのだ。恥ずかしがらなくていいのだ。
信子さんと並び、色とりどりの商品が並ぶ、魔法のようなフロアへと足を踏み出した。
信子さんに促され、絨毯の敷かれた階段を一歩ずつ上る。
外の喧騒が嘘のように、百貨店の中は煌びやかな空気と、香水の香りに包まれていた。
足音が吸い込まれるような静けさと、冬を先取りしたような暖かな空気。
どこか浮世離れした心地よさに、私は少しだけ肩の力を抜く。
最初に目に入ったのは、舶来の文房具が整然と並ぶ一角だった。
磨き上げられたガラス越しに、万年筆や琥珀色のインク壺が宝石のように並んでいる。
軸の色も、施された金の装飾も、ため息が出るほど繊細で綺麗——なのに。
……どれも、暁臣様のお部屋で見かけたことがあるものばかりだ。
『上等』と言うだけでは、彼には届かない。
そう思うと、急に自分の選択が怖くなった。
あのようなお邸に住まわれている暁臣様に、何を贈ればいいのだろう。
途端に、迷い子が深い霧の中に迷い込んだような心細さが襲ってくる。
そっと値札に目を向けると、ただの数字なのに、冷たく私を突き放しているような気がして、慌てて視線を逸らした。
こんな額のものを、私は本当に『選んでいい』のだろうか、と。



