【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~

手持ちのお金で、何が買えるだろう。
初めての経験に、喉の奥が詰まるほど緊張する。
けれどそれ以上に、胸が高鳴って仕方がなかった。

これが……知識を持ち、できることが増えると言うこと。
世界が少しずつ、自分に心を開いてくれるような感覚。
私もまた、世界に手を伸ばしていいのだと思える感覚だった。

榊原さんが運転する車の後部座席に揺られ、まずは信子さんのご自宅へ向かう。
シートの革が微かにきしみ、エンジンの低い唸りが胸の奥に響いた。

「あの、榊原様。今日買うものは、暁臣様には内緒にしておきたいんです」
「内緒、ですか?」
「はい。もし暁臣様から何か聞かれても……その、上手く濁していただけませんか?」
「承知いたしました。私の方からは、殿下に尋ねられてもお答えしないようにしますね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

頷いてくださるだけで、肩の力が少し抜けた。
『秘密』を持つことが、こんなにもどきどきするなんて。

車窓から見える街並みは、すっかり紅葉が色づき、黄金色や燃えるような赤に染まっている。
風が吹くたび、葉がひらりと舞い、陽に透けてきらめいた。

ほんの一年前、蔵にいた頃は、徐々に寒くなるこの季節がただ怖かった。
指先が冷えるたび「また閉じ込められるのでは」と怯え、冬の匂いさえ苦手だった。
けれど今、こうして見つめる秋の景色は、眩いほど美しい。

たった一年で、世界の見え方がこんなにも変わってしまうなんて。
暁臣様が、私の視界を塗り替えてくれたのだ。
そして私も、少しずつ自分の手で色を重ね始めている——そう思えるようになってきた。

信子さんと合流し、扉が開かれた百貨店へと足を踏み入れる。
以前、暁臣様と訪れた時は、特別なサロンがある階へと直接案内されてしまったけれど、今日は違う。
人の波の中に混ざり、自分の足で進む。
それだけで胸がざわつくのに、どこか誇らしい。