季節は足早に過ぎ去り、盛夏の面影が消え、風に肌寒さを感じるようになったある日のこと。
「こちらへどうぞ、すみれ様。花菱屋さんがお見えです」
案内されたお座敷に足を踏み入れた瞬間、視界が鮮やかな色彩に染まった。
以前と同じように、色とりどりの反物が川の流れのように美しく広がっている。
絹の光沢が重なり合い、まるで室内に季節が咲き乱れているみたいだった。
「五条家御用達を賜っております、花菱屋でございます。この度は、すみれ様の晴れ着をお任せいただき、心より光栄に存じます」
暁臣様は今日、どうしても外せない公務のために立ち会えないことを、朝からひどく残念がっていらした。
「俺が選んでやれればよかったのだが……」
眉を下げていた、あの表情が浮かぶ。
私も……本当は心細くて仕方がなかった。
一人でこの贅沢な空間に取り残されると、自分が場違いな存在であると言う現実が、胸の奥をちりちりと焼いた。
綺麗だ。眩しい。
そして——恐ろしいほどに高価に違いない。
この膨大な選択肢の中から、自分の意志で選ぶだなんて。
考えただけで頭がくらくらする。
逃げ道のない『選択』ほど怖いものはないと、私は知っている。
新年の祝賀会。
それは、五条家に嫁ぐ、暁臣様の婚約者として並んで公の場に出ると言う、避けては通れない儀式。
もはや、その前提を覆すことはできない。
『私がどう思うか』とは無関係に、世界は進んでしまう——そう思っていた頃の私とは、少し違うのに。
「こちらへどうぞ、すみれ様。花菱屋さんがお見えです」
案内されたお座敷に足を踏み入れた瞬間、視界が鮮やかな色彩に染まった。
以前と同じように、色とりどりの反物が川の流れのように美しく広がっている。
絹の光沢が重なり合い、まるで室内に季節が咲き乱れているみたいだった。
「五条家御用達を賜っております、花菱屋でございます。この度は、すみれ様の晴れ着をお任せいただき、心より光栄に存じます」
暁臣様は今日、どうしても外せない公務のために立ち会えないことを、朝からひどく残念がっていらした。
「俺が選んでやれればよかったのだが……」
眉を下げていた、あの表情が浮かぶ。
私も……本当は心細くて仕方がなかった。
一人でこの贅沢な空間に取り残されると、自分が場違いな存在であると言う現実が、胸の奥をちりちりと焼いた。
綺麗だ。眩しい。
そして——恐ろしいほどに高価に違いない。
この膨大な選択肢の中から、自分の意志で選ぶだなんて。
考えただけで頭がくらくらする。
逃げ道のない『選択』ほど怖いものはないと、私は知っている。
新年の祝賀会。
それは、五条家に嫁ぐ、暁臣様の婚約者として並んで公の場に出ると言う、避けては通れない儀式。
もはや、その前提を覆すことはできない。
『私がどう思うか』とは無関係に、世界は進んでしまう——そう思っていた頃の私とは、少し違うのに。



