久しぶりに暁臣様と並んで、庭園をゆっくりと歩く。
歩幅を合わせてくださっていることが、言葉よりも雄弁に優しい。
つい先日まで薄紅色に染まっていた桜はすっかり影を潜め、今は瑞々しい若葉が、透き通るような青空に向かって鮮やかな緑を誇示している。
風に揺れる葉の影が、白い小径に細かな模様を落としていた。
手入れの行き届いた花壇には、見たこともないような色とりどりの花々が咲き乱れていた。
赤、黄、紫……。
初夏の光を反射して、それらはまるで土の上に零れ落ちた宝石のようにきらめいている。
思わず息を呑むほど、眩しい。
こうして何も考えず、ただ景色を愛でる穏やかな時間を過ごすのは、一体いつぶりだろうか。
ここ数日は妃教育と言う名の授業のことで頭がいっぱいで、一人で抱え込み、自分を追い詰めすぎていたのかもしれない。
『できない』と思うほど、余計に呼吸が浅くなる。そんな悪循環の中にいた。
けれど——どうしても確認しておかなければならないことがあった。
あの騒動のあと、なおさら。
「……あの、暁臣様。今後、授業の方は、どのように進めていけばよろしいでしょうか」
「すみれ。……お前は、どうしたい?」
どうしたい……。
暁臣様は最近、私の進退に関わるようなことでも、必ず私の判断を仰いでくださる。
きっとそれは、私に『自ら考え、判断し、それを言葉にする』訓練をさせてくれているのだ。
自分の人生を自分で選ぶこと——それが許されている存在なのだと、私自身に自覚させるために。
授業の内容は、私にとってどれも難解で、気が遠くなるようなことばかり。
それはもう、隠しようのない事実。
けれど、怖いからといって目を逸らしたら、また『元の私』に戻ってしまう気がした。
「……もし、お許しいただけるのであれば。また、藤波様、篠塚様……そして信子さんに、引き続きご指導をお願いしたいです」
口にした瞬間、胸の奥がきゅっと痛む。
『お願いしたい』と言うだけで、私はいつも罪悪感を抱いてしまうから。
新しい知識を吸収し、不器用ながらもできることが一つずつ増えていくのは、確かに苦しい。
私の未熟さを突きつけられることに、向き合う作業でもある。
けれど、それが楽しく、誇らしくもあることもまた事実だった。
何より——その努力の先にある『暁臣様の隣』と言う未来を、私はどうしても手放したくない。
たとえ今の私は、まだ『ふさわしい』と言い切れなくても。
「千鶴様のような完璧な所作を身につけられるのが……いつになるのか、今の私には想像もつかないのですが……」
「あれのようになる必要はないし、焦る必要もない。すみれは、すみれのままでいいんだ」
その言葉が、胸の奥の固いものを少しだけ緩める。
自信のなさから、つい悪い方向へ思考が流れ、心に防壁を築こうとしてしまう。
——私の悪い癖だ。
歩幅を合わせてくださっていることが、言葉よりも雄弁に優しい。
つい先日まで薄紅色に染まっていた桜はすっかり影を潜め、今は瑞々しい若葉が、透き通るような青空に向かって鮮やかな緑を誇示している。
風に揺れる葉の影が、白い小径に細かな模様を落としていた。
手入れの行き届いた花壇には、見たこともないような色とりどりの花々が咲き乱れていた。
赤、黄、紫……。
初夏の光を反射して、それらはまるで土の上に零れ落ちた宝石のようにきらめいている。
思わず息を呑むほど、眩しい。
こうして何も考えず、ただ景色を愛でる穏やかな時間を過ごすのは、一体いつぶりだろうか。
ここ数日は妃教育と言う名の授業のことで頭がいっぱいで、一人で抱え込み、自分を追い詰めすぎていたのかもしれない。
『できない』と思うほど、余計に呼吸が浅くなる。そんな悪循環の中にいた。
けれど——どうしても確認しておかなければならないことがあった。
あの騒動のあと、なおさら。
「……あの、暁臣様。今後、授業の方は、どのように進めていけばよろしいでしょうか」
「すみれ。……お前は、どうしたい?」
どうしたい……。
暁臣様は最近、私の進退に関わるようなことでも、必ず私の判断を仰いでくださる。
きっとそれは、私に『自ら考え、判断し、それを言葉にする』訓練をさせてくれているのだ。
自分の人生を自分で選ぶこと——それが許されている存在なのだと、私自身に自覚させるために。
授業の内容は、私にとってどれも難解で、気が遠くなるようなことばかり。
それはもう、隠しようのない事実。
けれど、怖いからといって目を逸らしたら、また『元の私』に戻ってしまう気がした。
「……もし、お許しいただけるのであれば。また、藤波様、篠塚様……そして信子さんに、引き続きご指導をお願いしたいです」
口にした瞬間、胸の奥がきゅっと痛む。
『お願いしたい』と言うだけで、私はいつも罪悪感を抱いてしまうから。
新しい知識を吸収し、不器用ながらもできることが一つずつ増えていくのは、確かに苦しい。
私の未熟さを突きつけられることに、向き合う作業でもある。
けれど、それが楽しく、誇らしくもあることもまた事実だった。
何より——その努力の先にある『暁臣様の隣』と言う未来を、私はどうしても手放したくない。
たとえ今の私は、まだ『ふさわしい』と言い切れなくても。
「千鶴様のような完璧な所作を身につけられるのが……いつになるのか、今の私には想像もつかないのですが……」
「あれのようになる必要はないし、焦る必要もない。すみれは、すみれのままでいいんだ」
その言葉が、胸の奥の固いものを少しだけ緩める。
自信のなさから、つい悪い方向へ思考が流れ、心に防壁を築こうとしてしまう。
——私の悪い癖だ。



