独りぼっちの妖狐の娘は、一匹狼の龍神と結ばれる

「……出れた」
 門番がいる正門からではなく、裏口から家を出る。
 誰にも見つからなかった。
 ……どこに行こう。
 とりあえず、街かな……。
 もう一度、行ってみたかったし。
 険しい山道を、重い荷物を持って、下っていく。
「なんにもない……」
 ぽつりと呟く。
 景色が全く変わらない。
 少し、疲れてきた。
 もう、どれくらい歩いたか分からない。
 怖い。
 もうこのまま、どこにも行けないかもしれない。
 ずっと、この山の中で、独りぼっちなのかもしれない。
 どうしよう……。
 少しぼんやりとしてきた。
「…………っ」
 足を踏み外してしまう。
 ヤバイ。
 私、死んじゃう……!
「おい。何やってる」
 見えない何かに、腕をつかまれている。
 そう感じた。
「おい」
「す、すみません……」
 "見えない何か"は、(ひじり)さまの霊力のようだ。
「なぜ勝手に家を出ている」
「すみません」
 びっくりしすぎて、「すみません」しか言えなくなる。
 まさか、追いかけてきてくれるなんて……。
「帰るぞ」
「はい……」
 手をつかまれて、来た道を戻っていく。
「なぜ家出た?使用人はまだ気づいていないようだが……。何か不満でもあったのか?」
「いえ、不満は何も……」
「じゃあどうして……」
 ……答えられない。
 言える訳がない。
 言えるはずがない。
「まあいい。もう勝手に家を出るなよ」
 私の手を握っている(ひじり)さまの手は、とても温かかった。