美緒莉は私の一番の親友


「……え?」

 あれ、確か私、階段から落ちたはずじゃ……。
 辺りを見渡すといつも通りの教室――なはずなのに、なんだか違和感が。みんな浮き足立ってる感じがあるというか、空気がそわそわザワザワしてるというか……ん?
 ふと、机の上の自分の指先に何かが触れた感覚があって、目を向けると、そこには自分の名前の書かれたテープが貼られていた。
 この位置に貼られた見覚えのあるこれは、正しく入学初日限定の苗字が書かれていたテープである。確認してすぐその日のうちに剥がしたあの……え、なんでまた貼られてるの?

「……小山さん?」
「! はい!」

 急にかけられた声に慌てて隣を向くと、そこに居たのはいつも通りに席に座っている美緒莉だった。当然だ、美緒莉は入学初日からずっと私の隣の席なんだから。
 見知った光景にホッとしつつ、驚かさないでよ、小山さんなんてもう〜と美緒莉に返そうとしたその瞬間、ハッと頭の中で何かが引っかかったような感覚があった。
 ……あれ? 小山さん?

「? どうしたの?」
「あ! えっと……名前……」

 そういえば、この美緒莉の他人行儀な感じとクラス内に漂う空気感がなんだかすごく似てる気がする。それにこの苗字のテープ――黒板の、今日の日付。
 え……そんなことある?

「名前がどうしたの?」
「! いやその、なんで……じゃなくて、何ていうのかなって……」
「あぁ。えっと、桐野美緒莉です」

 そして、「そっちは?」と、気軽な声掛けにも関わらず微笑んだ彼女から漂ういつも以上の上品さに確信した。
 美緒莉だ。間違いなくこの人は美緒莉だし、まだこっちの様子を窺ってるこの感じ、あの入学初日の美緒莉と全く同じだと。
 つまり今私は、入学初日のあの時、あの瞬間に戻ってきている。

「……斗亜です」
「斗亜ちゃん。よろしくね」
「……うん」
「あ……ごめんなさい。何か変だった? 私、全然友達が居ないから作り方がわからなくて……」

 時間が戻ってるんだ。あの日、階段から落ちたはずなのに。
 え、なんで? 何が起こってるの?
 遠くなっていくみたいに意識が途切れたのは覚えてる。美緒莉の声に返事をしようと頑張って、最後の最後までしっかりと記憶に残ってるから。
 じゃああのあと、一体私はどうなったんだろう。

「……斗亜ちゃん?」

 どうしたの?と、訊ねる時の顔をした美緒莉が私の顔を覗き込む。その心配そうな美緒莉と目があって、そうだった、入学初日だとしたらこの美緒莉は今、不安でいっぱいなんだった!と、過去のやり取りを思い出した。
 そんな中で勇気を出して私に声をかけてくれたんだったと。それなのに今私がこんなぼんやりとした反応しか返せなかったら、頑張った美緒莉が可哀想だ。
 よし、とりあえず今は気持ちを一度切り替えよう。何が起こってるのかはまた後にして……そう、だって夢かもしれないし。
 そうそう、そうだよ。戻ってるなんてそんな変なことあるわけない。だって私、絶対に階段から落ちたんだから。
 あ、もしかしたらあのまま気絶して今は病院のベッドで眠ったまま夢を見てるとか。そうだよこれって夢なんだ! だったらさ、

「斗亜でいいよ。私もこういうの下手だから……こうやって声かけてくれて嬉しい。私も美緒莉って呼んでもいい?」

 なんて、普段の私はもちろん、あの日の私だってできなかった自分から距離を縮めるための一歩を踏み出してみた。
 だって相手は美緒莉だ。絶対に受け入れてくれるって今の私は知ってるんだから、怖がることなんて何もない。
 どうだ!と胸を張るような気持ちで美緒莉に笑いかけると、美緒莉は、「え……?」と戸惑った様子を見せた。
 そして、

「こんなの……こんな風に言われるなんて、思いもしなかった」

 独り言を呟くようにそう言うと、

「本当に、斗亜って呼んでもいいの?」

 と、なぜか警戒した様子で私に訊ねてくる。無理もないだろう。だって美緒莉は今まで友達がすんなりできたことの無いタイプの人間なんだから。私だってそう。その気持ちは十分にわかる。

「もちろん! これからも仲良くしてくれると嬉しいな」

 だから、私の返事にすごく嬉しそうに笑った美緒莉に、あ、やっぱり美緒莉だ、と私も嬉しくなった。私達はやっぱりいつどんな感じで会っても私達なんだと、親友になれるのだと、あの時の約束が証明されたような気持ちになったから。
 まるで夢みたい……あ、夢なんだっけ。だったらいつ覚めるんだろう。
 
 なんて思いつつ記憶の中にある通りに二回目のその日を終えると、何ごともなく帰宅していつも通りに一日が終わった。
 そして目を覚ますとそこは病院のベッド――ではなく、夜に潜り込んだ自分の部屋の使い慣れたベッドの上。

「……あれ?」

 まだ夢が覚めてない……?
 自然と自分の身体を確認したけど何ともなっていないようで、さすってみてもどこも痛くない。階段から落ちたあとだとしたら大怪我をしてるはずなんだけど……。

「斗亜〜! 早く起きなさーい!」

 ! お母さんの声だ。
 よくわからないまま、呼ばれるままに階段を下りてリビングに向かうと、お母さんの機嫌が悪くてジロリと睨まれた。

「もう、入学早々遅刻なんてやめてよね!」
「……?」

 え、入学早々? ……あれ?

「お母さん。私、階段から落ちたよね?」
「え? いつ?」
「昨日の……昼休み?」
「何言ってんの。昨日は入学式だったんだから昼休みなんてないでしょ?」

 そして、「もう、高校生になったんだからいつまでもぼやぼやしてないでしっかりしなさいよ!」と、仕事の準備へ戻るお母さんを慌てて呼び止めた。振り返るお母さんに勇気を出してその質問を投げる。

「じゃ、じゃあ、病院に入院してたりもしてないってこと? 私、色んなところぶつけて、なんか血が出てた気がするんだけど……」

 ハッと、私の言葉にお母さんは息を呑んだ。そして、

「……もしかして、引っ越す前の事故のこと思い出してる?」

 と、真っ青な顔をして真剣な声を出すものだから、違うのだと慌てて否定した。それとは全く関係ないから。でもお母さんはいくら言っても信じてくれなくて……というか、不安が拭えない、みたいな感じになっちゃって、「今日はお休みする?」なんて過保護モードに入ろうとするから、逃げるように家を出た。だってこのままそっちの方向へ話が進んでいったら大ごとになるのが目に見えていたから。

 ――もうこの話は親にするのはやめよう。

 そう心に決めて学校に着くと、黒板の日付もクラスの雰囲気も入学二日目のもので間違いなくて、これが現実なのだと私に突きつけた。これからはこの毎日が私の人生として続いていくのだと。

 ……そんなことある? なんでこんなこと……え、じゃあもうあの落ちる前には戻れないってこと?

 今朝のお母さんの様子だと過去は前回と同じまま何も変わってなさそうだから、変わってしまったのは昨日から続く今、ということになる。
 つまり私はあの階段を落ちたあと、本当に入学初日に戻ってきてしまって、二回目の高校生活が始ったということだ。夢じゃなくて、本当に。

「おはよう」
「! 美緒莉、おはよう」

 挨拶を返すと美緒莉は嬉しそうに笑って、「もう名前で呼んでもらえるの嬉しいな」と、返事の声を弾ませた。

 そういえば、前はこの美しい人を呼び捨てになんてできないって、まずはちゃん付けから入ってたな……。

 そのうちに痺れを切らした美緒莉に、いい加減私もしたんだから呼び捨てにしてと頼まれたのを思い出すと、今の美緒莉がどれだけ喜んでいるのかが染み込むように理解できる。

 美緒莉を喜ばせてあげられて良かった。

 人生って二回目があったら私でもこんなに上手くいくんだなと嬉しく思いつつ、そんな風に非現実的なことが起こっているにも関わらず、案外あっさり現実として受け入れ始めている自分が居ることに気づいて驚いた。

 なんだろう……意外と平気かもしれない。

 もうここにあの頃の思い出は残ってないのに。あの頃の私と美緒莉も存在しないのに。あったことが無かったことになってしまうのはとても悲しくて寂しいことなはずなのに。それなのに、何だか心は前を向いている。

 ……もしかしたら美緒莉が今の私に喜んでくれているからなのかも。

 美緒莉の笑顔が好きだった。私の隣で楽しそうに、嬉しそうにしてくれる美緒莉を見ると私も嬉しかったから。
 多分、美緒莉もそう思ってくれていたと思う。私が喜ぶと嬉しそうにしてたから。
 あの頃の私達は、一緒に居たいよと、口にしなくても態度で伝わる二人だった。それでも最後のあの日、ちゃんと一緒だって美緒莉は言ってくれた。大丈夫、そばに居るって。
 だから私が忘れた過去の私が今も心の中のどこかで眠っているように、あの頃の美緒莉だって思い出と一緒になくなってしまったとしても、きっと今の美緒莉の中のどこかで出てくるのを待っているんだろうと思う。
 だってどこであっても何があっても、美緒莉のそばに居る私は私だし、美緒莉も美緒莉だって前の美緒莉に教えてもらったから。
 そして二回目の今もここに変わらない私達が居るのが、その証明になったのだ。

 そう思えば、確かに存在したはずのあの頃に戻れない悲しみと寂しさは、日々を過ごす中でいつの間にかどこかへ吹き飛んでいった。

 前回よりも早い段階で下の名前で呼び合う私達は、当然前回のように普通の毎日の中で仲を深めていって、変わらない親友同士になっている。
 それならもう、もう一度やり直すことになってしまったけど、これで良かったのかもしれない。むしろ前回よりも今回の方が正解だったとすら言えると思う。だってあんな高いところから落ちて怪我が残った人生でもないんだし、こうやって始めから何も間違えることなく良い方向でやり直せてるんだから。
 奇跡的に与えられた二回目の今もこうして私と美緒莉はあの時のままここに居る。それってまるでそう決められていた二人みたいだなと思った。





「わ! 雲ひとつないね〜!」

 大きくぐっと伸びをすると、空を見上げた美緒莉が「そうだね」と、隣で笑った。
 前回と同じように、今の私達も昼休みになると屋上に上がって二人でお昼ご飯を食べている。今日はそんな二人の日課にピッタリな良い天気で、なんだか青空がじんと心に沁み渡る感じがした。

「……私ね、美緒莉と出会ったのは偶然じゃなかったんだと思うんだ」

 すると、気づけば隠しておいたはずのその思いを口にしていた。あの頃と同じ場所で、同じようにお昼ご飯を食べている現実が、綺麗な青空への感動と一緒に胸をいっぱいにして、そのまま勝手にあふれ出てしまったのだ。

「偶然じゃなかったって?」
「なんか、そうなるように決められていた、みたいな。私が私になるために出会うべきだった人、みたいな」

 だけど、外に出した瞬間ハッと我に返ってしまい、とてつもなく恥ずかしくなってギュッと口を閉じる。美緒莉は私と違って前回も仲が良かったなんて知らないんだから、さすがの美緒莉も急にこんなことを言い出す私には引くだろうと思ったから。
 でも、

「ふふっ、なんだかそれって運命の人みたいだね」

 美緒莉は、誤魔化したり跳ね除けたりなんてしないで私の言葉を受け取ると、その単語に置き換えて渡してくれた。
 ――運命の人。

「……運命って、なんだろう」

 美緒莉の言葉に置き換えたそれに、私はそう頭じゃなくて心で受け取ったまま返していた。
 もちろん、運命ってこういうものだよね、みたいな一般的な解釈はわかってるし、検索すれば詳しい言葉の意味だってすぐにわかる。でもなんていうのかな、そういうことじゃなくて――

「私は……自分に与えられた使命みたいなもの、だと思ってるかな」

 ――そう、そういうことが訊きたかったの。
 思ってること、考えてること、受け取る感覚なんかが似ている私達は、自然と訊きたいことの本質が伝わるというか、お互いの伝えたいことをそのまま語り合えるというか。そういうところがやっぱり美緒莉じゃないとと私が思う部分だった。
 なんだろう……美緒莉としか通じ合えないものが確かにあるのを感じるのだ。

「自分じゃないとできないこととか、そのために私がここに居るって信じられるもの、みたいな……だから私にとって運命っていうのは、私がこの人生を生きる意味みたいなものだって捉えてる」

 そう言った美緒莉はふと、どこか遠くへ目をやった。何かへ思いを馳せているような瞳をして。

「生きてるとさ、理不尽なことってあるよね。どうしてもどうにもならないものっていうか。良くも悪くも受け入れるしかないそういうものの、なんで?を繰り返した先に、一回だけ答えが見つかる出来ごとがあったんだ。私の今まではこれのためにあったんだ!って言い切れることが。その時にすごく運命を感じたの。そのためなら辛いことも耐えられるし、苦しいこともそのためにあったのかって思えるような。そしたら心がすごく楽になったんだ。だから今もずっと、私はそれを信じて生きてる。この運命は私だけの物だって」

 その自分の中で出した答えを、考えを、私に視線を戻した美緒莉は誤魔化すことなく、まっすぐな目で教えてくれた。その目と言葉にあるのは彼女を彼女とさせる信念の強さだと思った。
 ――運命は、自分に与えられた使命。そのために自分がここに居ると信じられるもの。
 自分がこの人生を生きる意味。

「……美緒莉は、本当にすごいね」

 思わず、感嘆の声が漏れていた。そんな私に、「え? 何急に」とキョトンとする美緒莉。
 自覚がないんだろう。でも私は確信してる。

「頭が良いからだと思う。いつもこうやってパッと、美緒莉はもう一つ上の答えを教えてくれるなと思って。きっといつも表面だけじゃなくて、それってどういうことかな? どういう風に受け止めようかな?って、もっと奥まで覗き込むようにして色んなものの答えを出しながら生きてきたんだろうなって……きちんと物ごとと向きあってきて、今もずっとそうやって生きてる人なんだなって、思った」

 振り返れば、入学早々頑張って隣の席の子に話しかけようとしてる時もそう。私の過去を聞いて自分の受け止め方を話してくれた時もそう。たった一つの運命という単語に、こうして答えてくれた今も。
 こうなるまでの私の知らない美緒莉にはきっと、色々あったんだと思う。こんなに綺麗な外見な上に頭が良いのが品の良さとして外にあふれ出ちゃってるんだから、普通の人と同じ人生は歩んでこられなかったんだろうな。それこそ、私みたいな地味で何もない友達ができただけで大喜びしちゃうくらいには。
 だからこそどうにもならない理不尽に悩んで、自分の生まれてきた意味を考えて、そこに運命という単語を当てはめてきたんだろう。きっとずっと、一人で。
 ……なんてすごい人なんだろう。
 強くて、美しい人なんだろう。
 私は今までそうやって目の前のことと向き合ってきたことはあったかな。自分の人生の中でようやく運命について考える機会に巡り会えたのが二回目の今だとしたら、ぼんやり生きるだけの一回目の私が出会うのはいつになったんだろう。
 今の私は高校一年生の十六歳だけど、偶然二回目の経験を得た特別な私だ。
 じゃあ来年の私は? 十七歳の私はどうなってる?

「私、生きる意味なんて考えたことなかったな」

 だって生きてるだけで良いって思ってたから。いじめられた過去を忘れたことで、普通の人間として生きられている今の自分が居るだけで正解なんだって思ってきたから。
 でも、

「生きる意味を考えて自分で見つけられなきゃ、きっと今の自分がここに居る意味なんて一生存在しないままなんだろうね。今の私に意味がないみたいに」

 美緒莉の話を聞いて、美緒莉と同じ感覚で運命だと感じられるものが自分の中にないことに気がついた。だって自分を作る過去の一大事が無い私は、覗いてみてもぼんやりとしていて、中身は薄っぺらだったから。

 そっか。きっと何かにぶつかって悩んで乗り越えた過去があるから意味が見つかって、自分を知ることができるんだ。
 そういう一つ一つの経験が自分を作るから、何もない私は私でなければならないものを持ってなくて、運命ってなんだろう、なんて考えもしないで口に出しちゃうんだ。
 きっとちゃんと向き合えば、答えなんてものは自分で見つけられるはずなのに。

 それはようやく自覚した、一部の記憶だけじゃない、信念のようなもの、自分を自分とするもののない、見つけようともしてこなかった自分自身の在り方で、そんなものと対面してしまった、私にとってどうしようもなく情けなくて恥ずかしい瞬間だった。
 ――だけど。

「斗亜がここに居る意味はあるよ」

 何も見つからない世界の中で、私を導いてくれる声がした。
 美緒莉だ。
 そうだ、そうだった。私には美緒莉が居た。
 美緒莉が私に出会ってくれた。

「私がここに居るのは斗亜と出会ったおかげなんだから。斗亜が居るから私はここに居て、だからそれが私達の運命なんだよ」
「……私達の運命」
「そう。私の意味は全部斗亜が持ってる。だから斗亜の意味は私と一緒にここにある。それが私達の運命で、生きる意味」

 そう言い切る美緒莉の瞳は輝いていた。そうであれと願う時とは違う、それに違いないと確信する強さを持ったその光り方に、何だか知らない美緒莉の一面を垣間見た気がした。美緒莉でもそんな顔をするんだ、みたいな……そんな感情も持ってるんだ、みたいな。
 
「だからもうそんな悲しいことは言わないで。斗亜のことはずっと私がちゃんとわかってるから。斗亜は今ここに居るだけで意味のある存在なんだから」
「……うん」

 一回目の私は何も知らない、何でもない私のままでしかなかった。でもそこで美緒莉に出会えたから二回目の今、私は自分について考えられる私になれて、美緒莉からこんなに嬉しい言葉をもらえてる。それだけで確かに私がここに居る意味になると思った。それが私がここで生きている意味。そして、

「ありがとう、美緒莉。私、美緒莉に会えて本当に良かった」

 私が持って生まれた――私達の、運命。

 キーンコーンカーンコーン

「! やばっ、予鈴鳴ってる!」

 聞こえてきたチャイムにパッと現実に引き戻されると、切り替わった頭で時間割りを思い出した。次の五時間目は生物だ。先生が厳しいので遅刻するのは非常にまずい。
 急いで教室に戻らないとと、慌てて非常階段を下りた。古びた鉄の階段を下りる二つの足音が耳に入ると、ふとその音に引っ張られるように前回の階段から落ちた過去が蘇ってくる。そうだ、あの時はここから落ちたんだから、今回はきちんと気をつけないとと。
 でも、その時。

 ドンッ

 後ろの美緒莉とぶつかってしまい、足を踏み外してしまった。
 まただ。ちゃんと気をつけたのに、また前回と同じことが起こってしまった。また背中に美緒莉がぶつかって――ぶつかって?
 ガシャンと柵にぶつかりながら開いた隙間から地面に落ちる。
 ぶつかったのは非常階段の幅が狭いからだと思ってた。本当は古くなって危険だから使ったらダメなのにこっそり使ってたのもあって、そういう何かしらの事故が起こる可能性もある場所だってわかってもいたし。
 だけど――違うのだと知った。

「斗亜。もう大丈夫だよ」

 倒れる私を覗き込む美緒莉が優しい顔で言う。

「今度こそきっと、大丈夫」