当時の私は本当に頑固で、間違いに気づいてて見ない振りができない性格というか、そういうこともあるよね、と許す心が足りない人間というか、とにかく自分のものさしが世界の基準だと信じきっている痛い奴だった。
そんな人間はやっぱり衝突も多く、貫き通す強さが必要だった私は気づけば親にすら弱いところが見せられなくなっていて、弱さを見せることは自分が間違っているのだと認めることと同じなのだと受け取るようになっていた。
バカな話だ。昔から自分はそういうバカなところがあるのだと今は俯瞰して見ることができてるから、記憶がなくなったあとの人生、何度も繰り返した世界には感謝である。全てが揃った私は人として一回りも二回りも成長できたと思うから。
だから、今の私ならちゃんと前を向いて歩いていけるって信じてる。あなただけを置いてきぼりになんてしないよ。
「美緒莉!」
やっぱり居たと駆け寄るベンチには目を見開いてカチコチになる美緒莉が座っていた。
ほら、やっぱり居た。
「……斗亜ちゃん、なんでここに……?」
ここは青葉公園。私が通っていた小学校とは別の小学校の学区内にある、同じ小学校のクラスメイトが来ることのない公園だ。そして以前、私が車道に突き飛ばされて車に轢かれた、記憶を失うきっかけが生まれた公園でもある。
つまり、あの日の美緒莉が私の願いを叶えてくれた場所。
「美緒莉、ごめんね」
言わなければならない言葉を口にした。一番に伝えたかった思いを。
「……え……?」
美緒莉の瞳が揺れる。動揺していて、理解が追いついてない彼女にもう一度、ハッキリとそれを告げた。
「美緒莉のこといらないなんて言って、ごめんね」
するとその瞬間、美緒莉はハッとしたと思ったらみるみる表情を険しくさせて、
「……覚えてるの?」
あの日と同じ質量の感情を私に向ける。
今も尚、美緒莉の中ではごうごうとあの日の怒りが燃えているのだと気づいた私は、不謹慎かもしれないけど、その怒りと同じだけ嬉しく思った。酷いことをしたし、ものすごく傷つけたってわかってるけど、その分だけ変わらない美緒莉の思いがまだそこにあるとわかったから。
「うん、覚えてる。二人で階段から落ちたことも、私達が言い合ったことも全部。美緒莉も覚えてたんだね」
「そうだよ! 気づいたら入学式の日に戻ってて意味がわからなくて、でも学校には斗亜ちゃんが居るから、結局ここに来るしかなかった。それなのになんで……よくそんな顔してここに来れたね」
「……今の私、どんな顔してる?」
「スッキリした顔してる。なんか全部が解決したみたいな……もう全部終わったみたいな……!」
そして、美緒莉が目を真っ赤にすると、「あっちに行って!」と私に告げる。「来ないで! もう放っておいて!」と。
「勝手に決めて、勝手に終わらせて! もう二度と聞きたくない! 顔も見たくない! 関わりたくない!」
「うん」
「いつもいつも自分勝手なんだよ、前からずっと思ってた! 結局一番自分が大事なだけじゃん、私に利用されたって言うけどさ、そっちが先に私を利用したんじゃん! なのになんで反省して罪悪感抱いてるのも本気で悲しんで苦しんでるのも私だけなの?」
「うん。ごめんね、一人にさせて」
「本当だよ! 私達は一人ぼっち同士で、だから二人になれたのに。なのに全部忘れちゃうんだもん……もう私だけ一生一人じゃん。だって斗亜ちゃんにはもう、私はいらない……」
あんなに怒ってたのに、独り言を呟くようにして段々と力なく沈んでいく美緒莉の声。
「だったら戻ってきたって、繰り返したって意味ない……もう一度やり直したくなんてなかった。約束もなくなったこんな世界、もうどうやって生きていけば良いのかもわかんない……」
俯くと、美緒莉の鼻を啜る音が聞こえてきて、その肩は小さく震えていた。
……わかるよ、美緒莉が言ってること。感じてること。記憶が戻った私には、それが美緒莉の全身全霊の心の叫びだってことが、痛いほどわかる。
美緒莉の家は離婚して片親になってから美緒莉自身に無関心なり、それなのにルールに厳しくて、いじめられてようが関係なく学校に行かないという選択肢を与えてもらえず、学校に行くと見せかけた美緒莉はよくこの公園に居た。もちろん親に連絡が行くので連れ戻されて学校に送られたりもするんだけど、それにもめげずに繰り返したのち、親が学校側に休みだと答えるようになったのが私の知る不登校になった理由だった。
私の場合は下校時、どこを通っても嫌な奴が居るから逃げるように離れるうちにここに辿り着いて、そのうち早退してここでこっそりサボるようにもなったりして……お互いいじめられていて逃げついた先、辿り着いたのがこの公園で、居場所を探していた私達の特別な集合場所であり、秘密基地のような役割を持つ場所でもあった。
『漫画だとよく学校の屋上に集まってるよね。今の私達みたいに』
『同じ学校だったら私達も屋上に集まれるのにね。誰にも見つからないし学校には行ってることになるしちょうど良さそう』
『でも屋上って実際入れなくない? 鍵かかってる気がする』
『鍵を盗んでスペアを作って戻しておけばいいんじゃない?』
『さすが美緒莉、すぐ思いつくね』
『ふふ。その時は任せて』
――屋上も、そういう場所だったよね。
私達、約束してたよね。だから美緒莉は毎回屋上に誘ってくれてたんだよね。
一人になった美緒莉がどこに居るのか考えた時、学校には来てないから屋上じゃないとなると、次にこの公園が思いついた。他に美緒莉が向かう場所なんて高校生になった今なら色々あるかもしれないけど、でも絶対にその中の一つにここは入るだろうなって。私と会いたくなくても、あの頃の記憶を辿る美緒莉はきっと居ると思ったから。通い詰めればいつかここでまた一人ぼっちの美緒莉に出会えるだろうって。
……ごめんね。本当にごめん。
もう一人になんてしないから。
「……私さ、美緒莉の言う通り、頑固で自分勝手で嫌な奴だよね。融通は効かないし、自分が正しいと思い込んでるし」
ベンチの隣に腰を下ろしてそっと美緒莉の背中に手を添えると、思い切り振り払われた。苦しみを和らげられたらって、美緒莉の辛さに寄り添いたくて手を添えただけだったんだけど、今の美緒莉は私からの慰めなんて求めてなかったんだろう。バカにするなって言われた気がした。
……あぁ、あの時の私と同じだな。じゃああの時の美緒莉はこんな気持ちだったんだ。
気持ちが届かないのも、すれ違うのも、悲しくて寂しいね。
私達ずっとずっと、ずっとそうだったんだね。
私が忘れてしまったばっかりに。
「私さ、ずっとずっと周りの人間に強い自分しか見せられなかったんだ。弱い自分が嫌いだった。でもね、ここでなら弱くなれたんだよ。だってここには弱くて情けない自分と同じなのに、強くて綺麗な美緒莉が居たから」
その瞬間、ハッと美緒莉の顔が上がる。
泣いてぐちゃぐちゃなのに綺麗なあなたと目が合った。
「私が強がって戦う必要のない、弱い私を自分と同じだと認めてくれる美緒莉が、そのままの私を必要としてくれたから」
「……覚えてるの?」
それはこの公園に来た時にも訊かれた台詞。
でも同じ意味のものではない。
「うん。思い出したよ、前回だけじゃなくて忘れちゃったあの頃の全部。じゃないともう美緒莉に会えないと思ってお母さんに訊いたんだ。そしたらちゃんと結びついて、私の中に記憶が、あの頃の私が戻ってきた」
「!」
「美緒莉はいつも私の話を聞いてくれたし、慰めてくれたよね。ずっとずっとそんな美緒莉に助けられてた。学校に行かないって踏み切れない私にとって自分を貫いた美緒莉はすごく眩しくて、美緒莉が居たから私は外でも親の前でも強く居られたんだ。本当に、ありがとう」
すると、私の言葉を聞いた美緒莉が思い切り抱きついてきたので受け止めると、美緒莉は大泣きしだして――それは誰にも見せない私の前だけの美緒莉だと思った。
「ごめんね、美緒莉。一人で頑張らせてごめんね」
もう私が背中を撫でる手を美緒莉は振り払わなかったので、慰めることを許された私は美緒莉と同じ涙を流しながら彼女に寄り添い続ける。このままお互いの涙が止まるまで、ずっと――。
「あの頃さ、私達いつもここに居たよね」
「居た。私なんて学校行かないでここに居た」
「ここお互いの小学校の範囲じゃないから良いんだよね。広いし木が多くて人目につかないし」
「私達みたいないじめられっ子にはちょうど良い隠れ場所だったよ。そういえば斗亜ちゃんがくれたノートまだとっておいてあるよ」
「嘘。普通に国語のノートのやつだよね? 美緒莉がなくなったって困ってたやつ」
「そうそう。完全不登校になる前の頃のね。その場ですぐ斗亜ちゃんがランドセルから出して私にくれたやつ。もう名前書いてあるけど中はまだあんまり使ってないからってさ。もう親には険悪すぎて頼めなかったからすごい助かったし、学校でもノートの斗亜ちゃんの文字見るとそばに居る感じがしてすごく心強かったんだよね。結局なくなったノートは盗まれててしっかり犯人が見つかって返ってきたんだけど、好きだから欲しかったって言われて気持ち悪くて捨てた」
「怖……昔から本当にそういう事件起こるよね。漫画の中みたいモテるし好かれる小学生だったよ……」
「漫画と違ってどうしようもない奴ばっかりにね。大体私を好きになるような奴はのちのち私のこと嫌いになるのもセットだからもううんざりだよ」
……確かに。好きだから気になって、気になる分同じ思いが返ってこない不満とか、思ってたのと違うという落胆とか、そういう悪い感情が生まれやすいのかも。気にしてない人は嫌いになるほどの熱量を持ち合わせてないと思うから。
「まぁ、もう今更の話だよ。そのあとの中学時代に十分そういうことはやり尽くしたから、一周回って無敵になった感じある。その他大勢なんてもうどうでもいいって。それで斗亜ちゃんしかいないって思って、斗亜ちゃんが受ける高校の情報を入手して、同じとこ受けたんだ。まだ生きてるの知ってたから。それで、今度こそちゃんとやり遂げなきゃ、みたいな使命感もあった」
「…………」
“まだ生きてる”それは、美緒莉が私を車道に突き飛ばしたのに私が死ななかったことを指しているのだと、きちんと理解した。
私がそう願ったから。毎日辛くてもう死にたいって。もう殺して欲しいって。こんなこと美緒莉にしか頼めないって。
「もうそれが私の生きる意味になってたんだ。私と違ってみんなに信頼されて誰かの代わりに戦える強くて格好いい斗亜ちゃんが私にだけ教えてくれる弱い本音が嬉しかった。絶対に叶えてあげるんだって思ってて、斗亜ちゃんが救急車で運ばれていったあと私、斗亜ちゃんの願いを叶えられた自分に対しての全能感?みたいなのがすごくて、これで私も死んで完璧だけど、とりあえず最後に学校も行ってやろう! 私は私だ!みたいな謎のハイになったのね? それで学校に行って斗亜ちゃんが居ない世界っていうのもそこで知って、もういいやって終わらせようとした時、斗亜ちゃんがまだ生きてるのを知って。じゃあまだ死ねないって切り替えて、中学時代はそれを支えに耐え抜いたよ」
「……どうやって私が生きてるの知ったの?」
「斗亜ちゃんの小学校に通う子に訊いた。記憶がないのも、どの高校受けるのかも、全部そうやって周りの人に訊いた。二人の秘密にして欲しいんだけどって。初めて自分が人に好かれやすくて良かったって思った」
「怖……」
「ふふ。そうだね、怖いね」
そう私に共感すると、スッと真顔になった美緒莉が「一つだけ確認させて」と真っ直ぐに私を見る。
「あの頃の約束のこと、今はどう思ってるの?」
真剣な表情で問われたそれは、私達にとってのキーポイントだった。過去の精算をするための、これからも関係を続けていくための。
ここで私達の答えが出る。
「……あの頃の私が美緒莉に願ったそれは、私の本当の願いだったよ」
そう。あの頃の私は強くならなきゃと自分で自分を追い詰めて、もうこの先もどうにもならないものだと勘違いして、限界を迎えた頃にそんなことを願ってしまった。美緒莉ならそんな願いも肯定してくれるって、美緒莉なら私を救ってくれるって本気で思ってたから。
そして、どんなに辛くても自分じゃ自分をどうにもできないくらい弱かったから。
「本気で死にたいと思ってた。でもさ、それは勘違いだったんだって今は思うよ。毎日辛いのが嫌だっていうのを大袈裟にしてその言葉に置き換えただけ。だって死にたいなら自分でさっさと死ねばいいのに、それを美緒莉に頼むってどういうこと? 本気だったらそんなこと言ってる余裕すらないはずだよ、今すぐにでも消えたいはず。覚悟もないのにそんなこと口にしてた自分に嫌気がさすし、そんなことよりもっとできることあるだろって思う。あの頃の辛い思いは本物で、美緒莉の支えが必要だったのは変わらない事実だし、本当に感謝してるの。でもそうやって美緒莉に約束させたのは違う。絶対に違う。完全に考えが足りないただの甘ったれの発想だった」
そう答えると、美緒莉が息を呑むのがわかった。
そして、
「じゃあ、記憶が戻ったとしてももう私に殺されたいとは思ってないんだね」
そう確認をとる、縋るような目をする美緒莉に、ハッキリと告げた。
「うん。もう思ってない」
途端、絶望するような目に変わった美緒莉の肩をポンと叩いて、「だってさ、」と続く言葉を口にする。
「私達、これからは二人で同じ学校に通って新しい毎日を生きていくんだよ? 死にたいって願う必要なんてないじゃん!」
口に出すと、そうだよねと賛同する思いみたいなのがあとからどんどん込み上げてきて、胸が希望でいっぱいになる感覚があった。キョトンとした美緒莉はまだ理解してないみたいだ。きちんと伝えないと、私の思いを。これからの願いを。
「実は私ね、今まで何度も美緒莉に殺されてるの。いや、本当に死んでるのかは確認してないからわかんないけど、自分の感覚としてね? 意識がなくなると戻されてるからさ。全部で四回分ね。で、これが五回目の高校一年生」
「五回目……? え、待って。殺されてるって前回の階段から落ちたやつのこと……え? 五回?」
目を白黒させる美緒莉に、「ね。びっくりだよね」と笑い返した。
「今回みたいに全部四月の入学式から始まるの。なんでだかわかんないけど、神様がくれたチャンスなのかなって思ってる。私と美緒莉がこうしてまた自分の人生に向き合えるように用意してくれたのかなって。だって私、繰り返すたびに新しい美緒莉を知ったから。それと記憶がない自分について、クラスのみんなについて、この世界について、なんか色々ぶつかって自分なりに知ることができたと思ってる。だからようやく五回目にして経験を積んだ上に記憶を取り戻した本当の私が生まれた、みたいな。今ね、そういう一つ大きくなった私なの」
ハッキリと胸を張って言うことができる。今の私は前の私よりすごい。だっていろんな経験をして、いろんな感情と向き合って、いろんな答えを探ってここまでようやく辿り着けた私なんだから。
でも、美緒莉は私の心境とは正反対のようで、どんどん自信のない顔になっていく。
「じゃあ、繰り返す斗亜ちゃんと繰り返してない私が四回分も高校生活を過ごしてきたってことで、前回はその中の一回ってことだよね?」
「そうだね」
「でも前回、斗亜ちゃんは私を無視してたよね……」
「うん。記憶がなかったからなんで殺されるのかわからなくて、どんなに突き放しても殺しにくるやばい奴だと思ってた。でも今は思い出したし、美緒莉の話訊いてそれだけ大事に思ってくれてたんだって全部繋がったけど。状況が違っても全部の美緒莉が同じように動いてくれた証拠がもう私の中にあるし」
「…………」
黙り込んでしまった美緒莉に「どうしたの?」と訊ねると、しょんぼりしたまま、「嫌われても仕方ないなと思って……しかも四回も」と。
「ずっとやばい私を見せてきたわけじゃん。新しい私って斗亜ちゃんは言ってくれたけど、多分四回分の私なんて私も知りたくないもん……前回だって思い出したくないし。今の斗亜ちゃん、前より私のこと嫌いになってるよね……?」
「え?」
「もう約束もなくなっちゃったし、じゃあ私の意味ってあるのかなって思って……だって、それが斗亜ちゃんが私なんかを必要としてくれる理由だったでしょ?」
……なるほど。そのために生きてきたって、そういう側面もあったのか。殺されたくないと意思表示するたびに怒ったり悲しんだりするのもそういう捉え方をした美緒莉が居たからなのか。
基本的に人に好かれる美緒莉だけど、嫌われることも多いから人付き合いに対してすごくネガティブで、自分に自信がない。美人で頭も良いのに自己肯定感が低いところがあるから、こんな考え方になってしまうんだ。
そっか私、大事なことまだ伝えられてない。
今の私にとっての美緒莉がどんな存在なのか。
今の美緒莉がどれだけ大切なのか。
「私が私になれたのは全部美緒莉のおかげなんだよ」
一回目からずっと、親友であっても無関係の人間であっても、私がその時その時で正解を考えるきっかけをくれたのは美緒莉だから。
「私が忘れた過去の私を見つけてくれて、記憶がない私っていう私に気づかせてくれて、私の知らない考え方を教えてくれて、私が間違ってる時も、酷いことをする時も、全部真正面から受け止めてくれて自分の深い部分まで見せてくれるし、私のことも同じ分だけ知りたいと思ってくれる。美緒莉が居る時の私は一度だって今何の時間?なんて思ったことなかったんだって、美緒莉が居なくなって気づいたんだ」
五回目を迎えた今だから、ようやく言い切れる。
「今までずっとね、記憶がなくて足りないと思ったことはあったけど、思い出したいと思ったことは一度もない自分が居たの。だからずっとあの頃のことは思い出せなかったんだと思う。きっと必要ないものと切り捨てたんだと思う。美緒莉が殺してくれた私はもう違う私だから、もうあんな強がってばかりの情けなくて弱い私はいらないって無意識に判断したんだと思う。でも、私には必要なものだった。辛くても苦しくても、情けなくても、それでも私には大事な記憶なんだって気がついた。だってあの頃がなきゃ私は美緒莉の親友になれないから」
私が私であること。それは私が美緒莉の隣に立つための必要条件で、私が私であるにはやっぱり美緒莉は欠かせない存在だった。
「美緒莉と私は似てるよね、普通の中に混ざれないところが。それはみんなにあわせるために自分の正しさを曲げられない頑固な部分のことを言っていて、多数決よりも自分の判断を信じたい我の強い部分を指してる。でもそれって普通じゃないっていうか、そういう個性ってことだよね。今までの経験がそうさせたのか、そのせいでそういう目に遭ってきたのかはわからないけど、でもそれがなくなったら私は私じゃないし、美緒莉は美緒莉じゃないし、私達は私達として出会えてない。この先きっとこんなに同じ感覚で話せる、同じ価値観でお互いを受け入れあえる人間なんてもう出会えないと思う」
だからね、
「私、美緒莉に会えて良かったし、きっとこれは運命なんだと思った」
世の中にはたくさんの人間が居て、たくさんの生き方があって、たくさんの正解がある。それなのに、こんな私達が出会えたなんて。
「きっと私達は出会うように出来てたんだよ。偶然この公園で出会ったのも、何度も世界が繰り返したのもその証明だと思う。辛い目に遭ったのも、一人ぼっちになったのも、ぶつかって本音を晒しあったのも全部今の私達になるには必要なことだったでしょ? だからどんなに嫌な部分とか情けない部分を見せちゃったとしても、そこに居るのが美緒莉だったなら全部が私の正解のために起こって当然のことだったって、私には美緒莉は必要だったって、簡単な答えじゃんって思ったよ。それって美緒莉にとってもそうじゃないのかなって思えるくらいには美緒莉のことわかる私が居るし、だったらそれって全部私達が本当の親友になるために必要な出来ごとで、これがきっと私だけじゃないで私達にとっての正解だったんだって思う」
美緒莉の瞳に輝きが戻る。
「だから美緒莉、これからはまた一緒に毎日を生きて、また新しい私達になろう。それでもっともっと楽しい毎日を過ごしていこう。もし不安になるならこれを私達の新しい約束にしよう」
宝石のように輝くそれはとても綺麗で、一生この日を忘れないと、約束と一緒に心に刻み込んだ。
きっとこの出来ごとがまた私を支えて、励まして、勇気をくれるだろう。だからこの先また新しい世界で何も知らない毎日が待っていたとしても、きっと大丈夫。
「……じゃあ私、これからはまた斗亜ちゃんの親友だって思ってもいい?」
当然!
「美緒莉は私の一番の親友だよ!」
――それはようやく辿り着いた私達の答えで、追い求めてきた私達の正解なのだと思った。
もしかしたらこの先また険悪になったり、距離ができたり、どうしても許せない部分が見つかったり、そんなマイナスな関係になってしまって、あの時の判断は間違えだったと悔やむ時がくるかもしれない。
でもそんなのは当たり前のことだ。それでいいのだ、私達みたいな頑固な人間は。自分を信じて、その時の正解とまたぶつかってみればいい。きっと正解なんてそんなもの。状況によって変わっていくもの。だから大事なのはこれを正解だと定めて信じられる自分の意思だ。
どんなに辛くても、苦しくても、虚しくても、向き合って考えて、知っていくことが大事なんだ。そうして乗り越えた先にまた新しい発見があれば、今は見えない新しい正解が見つかることもあるだろう。
「来年の私達はどうなってるだろうね」
「十七歳か……部活に入ってるわけでもないし、なんかそういうのピンとこないなぁ」
「美緒莉はまず学校に慣れないとだね。私クラスの大体の人と馴染みがあるから任せて」
「えー! それは私的にすごく嫌な情報なんだけど……もうあんまり他の人とは関わりあいになりたくないし……」
「大丈夫。良い距離感を保ってくれると思うよ。広く浅いタイプの人達だし、執着しそうな人には牽制しといたし。それに何より一回り大きくなった私が居る」
「頼もし過ぎる……! そうだよね、ついに私達同じ学校で同じクラスなんだもんね」
「しかも隣の席」
「こんな未来があるなんて思いもしなかったよね。頑張ってきて良かったな……」
「本当だよね。でも来年はクラス替えでどうなってるかわかんないけど」
「じゃあ明日からその前提も頭に入れておくよ。まずは屋上解放するじゃん?」
「あはは! やっぱ美緒莉は美緒莉だね!」
変わらない自分も変わっていく自分もそれが自分なのだと自信を持とう。
変わっていく現実も変わっていく正解もそれが今必要とされているものだと受け入れよう。
過去は変わらないし未来はわからない。だから今と向き合って、未来の私の正解を増やそう。そうすればきっといつの間にか自分の周りは正解であふれるようになると思う。絶対に大事にしたい正解が見つかると思う。
ちょうど今回の私達みたいにね。



