芦屋さんは恋する悪陰陽師 ※ただし呪詛は本気です。

「おい。安倍。」
夕日が落ちて、暗くなった下駄箱。そこには津島がいた。
「ちょっとこっち来いよ。」
「…ごめん、もう帰るから。」
鞄をぎゅっと握って、断る。すると、津島が僕の胸ぐらを掴んだ。
「いいから、来い!」
「くっ…!」
そのまま、ぐいっと引っ張られる。僕は引きずられるように連れて行かれた。

連れて行かれたのは、校舎裏。いつも菊花さんとご飯を食べている場所だ。ただ、もう夜が近くなって、いつもよりも暗く、不気味な雰囲気だった。そこにつくと、津島は声を荒げながら、さらに僕の胸ぐらを締め上げた。
「お前、なんかしてんだろ!」
「ゔっ!……な、にが?」
「どう考えてもおかしいだろ!オレと一緒にいるやつらが怪我したり、弁当からネズミが出てきたり…変なことが起きてんだろ!」
津島は、僕が何かをしていると思ったらしい。
「あいつに水かけたのも、わざとだろ!」
実験のときのことを言っているらしい。
「あれは…火が…!」
「火?言い訳してんじゃねぇよ!別になんともなかっただろうが‼︎」
「え…?」
「あいつだって、お前が急に水かけてきたって言ってたぞ!」
「え?え…?」
あの火の動きが見えてなかったの?だからクラスメイトも周りの人間も逃げるそぶりを見せなかった?
「は?何しらばっくれてんだよ‼︎」
津島が声を荒げる。それは、苛立ち、怒り…そして恐怖が滲んでるように思えた。周りで起きる事件。不可思議なものもある。不気味で、「次はオレなんじゃないか?」という恐怖があるんだろう。でも、ここで「菊花さんがやった」なんて僕には言えない。掴まれた苦しさもあり、ぐっと息をのんだ。黙っている僕を地面に投げるように離す津島。僕は解放されたものの、力尽きて地面に崩れた。
「なんか言えや!」
「うぐっ…‼︎」
地面に転がる僕の腹を蹴る。津島は語気を強めて、僕を詰めた。
「あぁ⁉︎じゃあ、お前じゃねぇ誰かがやったっていうのかよ‼︎……!」
言い切ってから、津島はハッと表情を変える。
「もしかして…」
津島が僕をじっと見た。
「芦屋、か…?」
津島の言葉に、僕の喉がひくりと引き攣った。事件の犯人は間違いなく菊花さんだ。そして、菊花さんがやったことは、津島たちが僕をいじめていたから、という理由があったとしてもいきすぎた粛清だ。彼女は間違っている。それでも僕は彼女を『悪者』だとは言いたくなかった。
「なぁ、おい。お前、知ってんだろ。」
僕が無言を貫く様子に、津島が焦りを見せた。
「あいつが来てからじゃねぇか。どんどんおかしいことが増えていって…。オレの周りのやつばっか…。不気味なやつだと思ってたけど、あいつがなんかしてんのか?」
津島が早口になる。じわりと汗が浮かんでいるのが見えた。恐怖で足元がおぼつかないのか、ふらふらと後ろ向きに歩いて、僕から離れる。
「あいつ…次はオレのつもりなんじゃ…。」
津島がそこまで言った瞬間、僕は背筋がぞわりとした。急に息が吸いづらくなる。
「―――大当たり。」
静かに、しかしはっきりと聞こえた声。菊の花の香りが立ち込める。
「次はあなたです。」

―――菊花さんは津島の真後ろに立っていた。