「は? 嘘? どうだろ……」
「よく言うだろ。作家たるもの、息をするみたいに自然に嘘をつけないと良い作品なんて書けないって。この話さ、詐欺師が主人公だけど、詐欺師らしくないんだよ。詐欺師って看板しょってるだけ。悪人が改心していくって話なのにこいつ、しょっぱなから果物屋で買い物してるし」
「それのどこが悪い?」
「詐欺師なら嘘でまるめこんで、りんご奪い取るだろうが」
「……いや、でも、これから詐欺働きに行くぞ、の腹ごしらえのシーンだから」
「そこも! 大体さ、腹ごしらえっていったらもっとがっつりしたもの、食べたくないか? これから大仕事なんだぞ。りんごはないだろうが。つまりお前は嘘をつききれてない。結果、リアリティが生まれない」
「……それ、致命的じゃん」
ぐったりと机に潰れた僕に、だからさ、と直樹が身を乗り出してくる。
「これから十分間、ひたすら嘘つき続けてみ?」
「は? いや、そんな急に言われても……」
「小説上手くなりたいんだろうが。四の五の言わず始めろ。よーい、どん」
よーいどんってなんだよ!
いらっとしたものの、なるほど、という思いもあった。確かにこいつの言うことにも一理ある。僕は机からめりめりと体を引き剥がし、直樹に向き直った。
見てろ、とっておきの嘘をついてやる。
「ええとね。昨日の話なんだけど、UFOがね、隣、いや、向かいのね、マンションの屋上に……」
「ストップ。だめだ。お前、嘘の才能が完全に死んでいる」
さらっとむかつくこと言ってんじゃねえよ!
「じゃあ、お前はできんの? 嘘つき続けるってやつ」
八つ当たりだと思いつつ、僕はどん、と机を叩いた。はずみで机の上に置いてあったスポドリのペットボトルの中身がちゃぷん、と揺れる。
「もちろん。こう見えても俺、オオカミ少年の再来って親に言われたことあるし」
「……それ、ラストオオカミに食われるやつだよね。ってか親になんてこと言われてんだよ」
窓の外で蝉も抗議するように激しく鳴きわめく。直樹はそんなのどこ吹く風で、がたついたテーブルの下で無造作に足を組んだ。
「じゃあやってやろうか。見てろよ。俺の実力」
「見せてもらおうじゃないの」
どうせ、大口叩いたって大した嘘なんてつけないのだ。河童が出たとかそんな程度のつまんない嘘に違いない。
そう気軽に構えながら、僕はスマホをいじり、アラームをセットする。
「じゃあ、よーい、スタート」
「よく言うだろ。作家たるもの、息をするみたいに自然に嘘をつけないと良い作品なんて書けないって。この話さ、詐欺師が主人公だけど、詐欺師らしくないんだよ。詐欺師って看板しょってるだけ。悪人が改心していくって話なのにこいつ、しょっぱなから果物屋で買い物してるし」
「それのどこが悪い?」
「詐欺師なら嘘でまるめこんで、りんご奪い取るだろうが」
「……いや、でも、これから詐欺働きに行くぞ、の腹ごしらえのシーンだから」
「そこも! 大体さ、腹ごしらえっていったらもっとがっつりしたもの、食べたくないか? これから大仕事なんだぞ。りんごはないだろうが。つまりお前は嘘をつききれてない。結果、リアリティが生まれない」
「……それ、致命的じゃん」
ぐったりと机に潰れた僕に、だからさ、と直樹が身を乗り出してくる。
「これから十分間、ひたすら嘘つき続けてみ?」
「は? いや、そんな急に言われても……」
「小説上手くなりたいんだろうが。四の五の言わず始めろ。よーい、どん」
よーいどんってなんだよ!
いらっとしたものの、なるほど、という思いもあった。確かにこいつの言うことにも一理ある。僕は机からめりめりと体を引き剥がし、直樹に向き直った。
見てろ、とっておきの嘘をついてやる。
「ええとね。昨日の話なんだけど、UFOがね、隣、いや、向かいのね、マンションの屋上に……」
「ストップ。だめだ。お前、嘘の才能が完全に死んでいる」
さらっとむかつくこと言ってんじゃねえよ!
「じゃあ、お前はできんの? 嘘つき続けるってやつ」
八つ当たりだと思いつつ、僕はどん、と机を叩いた。はずみで机の上に置いてあったスポドリのペットボトルの中身がちゃぷん、と揺れる。
「もちろん。こう見えても俺、オオカミ少年の再来って親に言われたことあるし」
「……それ、ラストオオカミに食われるやつだよね。ってか親になんてこと言われてんだよ」
窓の外で蝉も抗議するように激しく鳴きわめく。直樹はそんなのどこ吹く風で、がたついたテーブルの下で無造作に足を組んだ。
「じゃあやってやろうか。見てろよ。俺の実力」
「見せてもらおうじゃないの」
どうせ、大口叩いたって大した嘘なんてつけないのだ。河童が出たとかそんな程度のつまんない嘘に違いない。
そう気軽に構えながら、僕はスマホをいじり、アラームをセットする。
「じゃあ、よーい、スタート」



