不吉を呼ぶ姫は愛されないはずだった ―王弟が望んだのは、ただ一人の婚約者―


部屋へ戻ってからも、誕生祭での光景が頭から離れなかった。

ウィル様の隣には、あんなにも美しい女性がいた。

もうウィル様と共に過ごす未来はなくなってしまったのだと思うと、胸が苦しくて――。

でも、ウィル様が幸せになることは嬉しい。

――泣かずに「お幸せに」とお伝えできて、本当に良かった。

深いため息が漏れる。

机の引き出しを開けると、鈴蘭のネックレスと守り紐が並んでいた。

誕生祭へ出席するため、今日はどちらも外していた。

ネックレスを手に取る。

今も変わらず大切にしている、小さな鈴蘭。

見つめていると、幸せだった記憶が浮かんでくる。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢


家具選びがひと段落し、少しだけ会話が途切れる。

ゆったりとした時間が流れる中、ウィルはふとアリスの首元へ視線を向けた。

「ネックレス、毎日着けているのか」

その言葉に、アリスは鈴蘭へ触れる。

「はい……その、着けていると安心するんです」

少しはにかみながら、アリスはウィルの袖を引いた。

袖口から覗く守り紐を見つけると、嬉しそうに微笑む。

「ウィル様も、守り紐を着けてくださっていますね」

「あぁ、お守りだからな」

そう言うと、ウィルは自然な仕草でアリスの肩を抱き寄せた。

アリスはドキッと息を呑む。

いつまでたっても、心臓が慣れることがない。

それでも、こうして腕の中にいると何より安心できる。

――ずっと、この温もりに包まれていたい。

そんなことを願ってしまう。

そのままウィルの胸へ頭を預けた。

二人の間に、穏やかな沈黙が流れる。

やがてアリスは顔を上げ、ウィルを見つめた。

「あの……」

「どうした」

「私のお部屋にあった本棚の本なのですけど……」

少し照れくさそうに続ける。

「ウィル様が昔読まれていた本なんですよね」

「読んでみたい本がいくつもあったので……このまま本棚を置いておいていただけないか、クララさんにお願いしたんです」

「そうしたら、一つだけそのまま残してくださることになって……だから、これから読むのが楽しみで――」

「気に入る本があるといいな」

「はい」

アリスは頷いた。

「あの、ウィル様のお勧めの本とかは何かありますか?」

「お勧め?」

「……子供の頃だが、『アスナルト冒険記』は何度も読んだ」

「アスナルト?」

アリスが首を傾げる。

「あぁ。二冊に分かれていて、なかなか読みごたえがあった」

「では、最初にそれを読んでみます」

ウィルは考えるようにアリスを見る。

「ただ、アリスが普段読むような本とは少し違うかもしれない」

「それでも、読んでみたいです」

ウィルはその言葉に微笑み、アリスの髪を優しく撫でる。

「そうか」

アリスは少しだけ甘えたくて、もう一度ウィルの胸へ寄り添った。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢


あの時は、ウィルの屋敷で暮らす日が来るのだと信じていた。

家具を選び、本棚を選び、少しずつ新しい生活に向けて準備を進めていた。

……新しい家具なんて、選ばなければよかった。

塔で使っていた家具を持ち込めば、全て無駄にならずにすんだのに。

私なんかのために、皆さんが時間を割いてくださった……。

ウィル様にまで家具選びに付き合わせてしまって、本当に申し訳ないことをしてしまった。

それに、今思うと、私が選んだ家具はどれもあのお部屋には少し可愛すぎたかもしれない。

自分が選んだ家具を思い浮かべて、苦笑が漏れた。

セリーヌ様なら、あのお部屋にもっと自然と馴染む家具を選ばれるのだろう。

トルシア王家の方々はまるで絵画のように美しく、その中に立つセリーヌ様の姿が自然と頭に浮かんだ。

きっと、ウィル様に相応しい奥様になられるわね……。

ネックレスを胸元に引き寄せ、ぎゅっと握りしめる。

熱くなった目元を閉じ、こぼれそうになる涙を必死にこらえた。

私にはこれがあるもの。

だから、それで十分。

――出来すぎた夢を見ていたのね。