不吉を呼ぶ姫は愛されないはずだった ―王弟が望んだのは、ただ一人の婚約者―

二日後。

アリスは、林の中にぽつんと置かれた木のベンチに腰掛けていた。

この場所には、早朝か夜に来ることが多かった。

その時間の空気がいちばん静かで落ち着く。

一昨日、ここであんなことがあって、昨日は来るのをやめた。

もしまた顔を合わせたら気まずい思いをするだろうと思ったからだ。

けれど、ずっと塔にいるのもなぜか落ち着かなくて。

気分転換も兼ねて、結局またここに来てしまった。

手に持っていた小さなランプの灯りを消す。

林の夜は思ったよりも静かだった。

風が葉を揺らす音。

遠くで鳴く虫の声。

枝の隙間からのぞく三日月と星々。

ぼんやりと、それを眺める。

塔の部屋から見る空とは、少し違う気がして。

空を見上げているうちに、いつの間にか意識が薄れていたらしい。

――なんだか、あたたかい?

そう思って目を開ける。

視界に入ったのは、夜空ではなく――人の顔だった。

驚いて思わず見上げる。

でも、声が出ない。

えっと……あれ――私、抱きかかえられてる?

頭の中が一瞬で真っ白になる。

たしか、ベンチに座って空を見ていて――そのあと、どうしたのかしら。

一人で真っ赤になりながら大混乱しているアリスに気づいたのか、

「……あのような所で寝ていたら、風邪をひきますよ」

素っ気ない声が降ってきた。

「あ、え……ごめんなさい。あの、もう大丈夫です」

慌てて言葉を返すと、彼はアリスを地面へ立たせてくれる。

「寝るなら、早く部屋に戻られた方がいい」

思わず「はい」と返事をしてしまった。

彼は軽く一礼する。

そのまま立ち去るのかと思ったけれど、彼は数歩戻り、さっきまでアリスが座っていたベンチに腰掛けた。

どうやら本当に、この場所は彼にとっても定位置らしい。

何事もなかったように本を開き、ページをめくる。

その様子に、アリスは声をかけることもできず、その場をあとにした。

◇◇◇

それ以来、アリスは何度かウィルとこのベンチで顔を合わせるようになった。

会う、というのは少し違う気がする。

向こうが先にいることもあれば、アリスが先に来ることもある。

けれど、お互い軽く挨拶するだけで、それ以上言葉を交わすことはない。

アリスはただ、ぼんやりと空を見ている。

ウィルは本を読んでいたり、目を閉じていたり。

たまたま、くつろぐ場所が同じだったというだけだ。

最初はもちろん、とても緊張した。

彼は驚くほど整った容姿をしていて、夜空に浮かぶ月みたいな人だったから。

けれど、あまりにも何とも思われていない様子だから、今ではどこか落ち着く空間になっていた。

彼にとって私は、きっと空気のようなものなのだと思う。

いてもいなくても、何も変わらない。

もちろん、すごく意識はしてしまう。

それでも、少しずつ居心地がよくなってきていた。

それが、不思議だった。