経理官が数字や帳簿を次々と並べ立て、女官長が行事の日程を延々と説明していく。
うぅ……これ、完全に数学のテスト受けてる気分じゃん……。
理系だから数字自体は嫌いじゃないけど、分野が違いすぎて頭が悲鳴を上げてる。
しかも全部手計算って正気かよ。誰か、早くエクセルかスプレッドシートを持ってきてよ!!!
頭の中身が半ば石化しかけたその時……。
「まあまあ、そんなに堅苦しくしなくても大丈夫ですわ」
ふわりと入室した王妃の声に、空気が一変した。
経理官も女官長も慌てて深々と頭を下げ、そそくさと退室していく。
部屋に残されたのは、私と王妃だけ。
「わたくしも昔は、この授業が大の苦手でしたの。数字も帳簿も、さっぱりでして……」
そう言って、王妃は机の帳簿に視線を落とし、ふっと笑みを深める。
「ある日、孤児院に寄付するために『パンを百個』と書くつもりが、零を一つ多くしてしまって……」
「……千個?」
「ええ。結果、王宮の裏庭いっぱいにパンの山が築かれてしまったのです」
「えぇぇぇ!」
思わず声が裏返る。頭の中に、パンでできた小山を前に途方に暮れる王妃の姿が浮かんでしまった。
「結局、兵士たちや侍女たちまで総出で配る羽目になりましてね。
今では笑い話ですが、その時は冷や汗が止まりませんでしたわ」
え、そんなドジするんだ……可愛い!
王妃がくすくすと笑う声は、昨日のお茶会の時と同じ朗らかさで。
「だから、大丈夫ですよ、アリエル嬢。最初から完璧にできる人なんておりません。
大切なのは、誠意を持って向き合うこと。そして困ったときは、誰かを頼ることです」
そう言いながら、王妃は私の手をそっと包み込み、柔らかく微笑む。
その温もりに、胸の奥の緊張がじんわりほどけていくのを感じた。
「……それからもう一つ。エドが困ったことをしたら、いつでもおっしゃってね。
わたくしがすぐに、ゲンコツをしに参りますから」
「えっ……!」
あまりにさらりと言われて、思わず聞き返してしまう。
けれど王妃は真顔のまま、にっこりと笑っていた。
え、ほんとに、ゲンコツ!?あの完璧主義なエドに!?
「ふふ。今でこそあんな感じだから、意外に思うかもしれないけれど、あの子も昔は少々やんちゃでしてね……。
まだ十にもならぬ頃、授業を抜け出して庭で昼寝していたことがあったのです」
「抜け出して昼寝……!」
思わず素っ頓狂な声が出る。あのエドが、授業をサボって昼寝!?
「見つけたときに叱っても効き目がなくて、仕方なくゲンコツを落としましたら……。
大袈裟に泣いて、半日も拗ねておりましたのよ」
「ぷっ……殿下も拗ねるんですね」
思わず笑ってしまう。なんだそれ、可愛いじゃん。
「だから大丈夫。……いざとなったら、わたくしが再びゲンコツを振るって差し上げます」
「あはは!今の姿からは全然想像できないです!その時は、お願いします」
エドにもちゃんと子どもらしい過去があるなんて。
緊張で固まっていた肩の力がふっと抜ける。
厳しい授業の合間に訪れた、ほんのひとときの温かさ。
そのおかげで、もう少しだけ頑張れるような気がした。
うぅ……これ、完全に数学のテスト受けてる気分じゃん……。
理系だから数字自体は嫌いじゃないけど、分野が違いすぎて頭が悲鳴を上げてる。
しかも全部手計算って正気かよ。誰か、早くエクセルかスプレッドシートを持ってきてよ!!!
頭の中身が半ば石化しかけたその時……。
「まあまあ、そんなに堅苦しくしなくても大丈夫ですわ」
ふわりと入室した王妃の声に、空気が一変した。
経理官も女官長も慌てて深々と頭を下げ、そそくさと退室していく。
部屋に残されたのは、私と王妃だけ。
「わたくしも昔は、この授業が大の苦手でしたの。数字も帳簿も、さっぱりでして……」
そう言って、王妃は机の帳簿に視線を落とし、ふっと笑みを深める。
「ある日、孤児院に寄付するために『パンを百個』と書くつもりが、零を一つ多くしてしまって……」
「……千個?」
「ええ。結果、王宮の裏庭いっぱいにパンの山が築かれてしまったのです」
「えぇぇぇ!」
思わず声が裏返る。頭の中に、パンでできた小山を前に途方に暮れる王妃の姿が浮かんでしまった。
「結局、兵士たちや侍女たちまで総出で配る羽目になりましてね。
今では笑い話ですが、その時は冷や汗が止まりませんでしたわ」
え、そんなドジするんだ……可愛い!
王妃がくすくすと笑う声は、昨日のお茶会の時と同じ朗らかさで。
「だから、大丈夫ですよ、アリエル嬢。最初から完璧にできる人なんておりません。
大切なのは、誠意を持って向き合うこと。そして困ったときは、誰かを頼ることです」
そう言いながら、王妃は私の手をそっと包み込み、柔らかく微笑む。
その温もりに、胸の奥の緊張がじんわりほどけていくのを感じた。
「……それからもう一つ。エドが困ったことをしたら、いつでもおっしゃってね。
わたくしがすぐに、ゲンコツをしに参りますから」
「えっ……!」
あまりにさらりと言われて、思わず聞き返してしまう。
けれど王妃は真顔のまま、にっこりと笑っていた。
え、ほんとに、ゲンコツ!?あの完璧主義なエドに!?
「ふふ。今でこそあんな感じだから、意外に思うかもしれないけれど、あの子も昔は少々やんちゃでしてね……。
まだ十にもならぬ頃、授業を抜け出して庭で昼寝していたことがあったのです」
「抜け出して昼寝……!」
思わず素っ頓狂な声が出る。あのエドが、授業をサボって昼寝!?
「見つけたときに叱っても効き目がなくて、仕方なくゲンコツを落としましたら……。
大袈裟に泣いて、半日も拗ねておりましたのよ」
「ぷっ……殿下も拗ねるんですね」
思わず笑ってしまう。なんだそれ、可愛いじゃん。
「だから大丈夫。……いざとなったら、わたくしが再びゲンコツを振るって差し上げます」
「あはは!今の姿からは全然想像できないです!その時は、お願いします」
エドにもちゃんと子どもらしい過去があるなんて。
緊張で固まっていた肩の力がふっと抜ける。
厳しい授業の合間に訪れた、ほんのひとときの温かさ。
そのおかげで、もう少しだけ頑張れるような気がした。



