転生した悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!〜二つの王冠の子〜

「お前な……私を舐めんなって。前に言ったよな?」

不意に細い指が頬に触れ、額がそっと寄せられる。

「結婚するだけで、セシルを守れるわけないってのは気づいてたよ」
「……ああ」
「さすがに、同君……なんだっけ?そういう政治の仕組みまでは知らなかったけど」

苦笑まじりに言うリエルの瞳は、まっすぐで揺らがない。
胸の奥に熱いものが広がり、言葉を失う。

母上の姿を、俺は幼い頃から見てきた。
長い年月、第二子を望んでも叶わず、后妃との均衡に苦しんだ。
子を成せない妻にかかる重圧と孤独を、痛いほどに知っている。

もしリエルに子が授からなかったとしても……俺は彼女を手放すつもりはない。
けれど、きっとリエルは王太子妃として頑張ろうとしてくれるだろう。
母と同じかそれ以上の思いをさせるくらいなら、廃太子となっても構わないとすら思っていた。

「でも……子どものことは難しいよな。言われたって、どうしようもないことが多すぎる」

そう零すと、リエルの腕がそっと俺の首に回される。

「ごめんな、気を使わせて。ありがと」

耳元に落ちる声は、柔らかいのに芯があった。
結婚も、妊娠も。政治的に最も利用されたのは彼女自身だ。
きっとそれに気づいているはずなのに……俺を気遣い、感謝を向けてくれる。

リエルが精神的に脆いだなんて、どれほど愚かな思い違いをしていたのだろう。
この国のどこを探しても、彼女ほど強く、聡明で、そして優しい女性はいない。

「……ちょっとだけな?」

ハニカミ混じりの笑顔とともに、じゃれ合うように重ねた唇。
触れた瞬間、胸の奥がじんと熱を帯びて、愛おしさに溺れそうになる。


ポコッ……ポコッ……

小さな胎動で目を覚ます。
隣に眠るエドを起こさないように、そっとベッドを抜け出す。
カーテンをわずかに開け、差し込む月明かりの下で、お腹に両手を添える。

「おはよう」

もう一度。

「……おはよう」

静かな部屋に、母になる実感と、胸の奥に溢れる温かさが滲んでいった。


「形式的なものだから、緊張しなくても大丈夫でしてよ」

祝賀の場を前に、宮廷医の診察を受けることになった。しかも今回はエドだけでなく、王と王妃まで同席しての診察だという。

……いやいやいや!何でそんな大人数で見守る必要があるんだ!?
図書館ですでにこの世界の妊娠に対する知識は確認済み。
どうせ顔色とお腹の大きさを見て終わりってわかってるし、診てもらう意味があるのかどうかって感じなんだけどなぁ……

現れた宮廷医は、白髪の混じった髪をきちんと撫でつけ、黒地のローブに控えめな銀の刺繍を施した初老の男。腰には小さな薬壺を下げ、手には長年使い込まれた革の手帳を持っている。
一歩近づいただけで、薬草と酢のような独特の匂いがふわりと漂ってきた。
その視線は鋭く、目元の深い皺と相まって、ただ立っているだけで妙な威厳を放っている。

「では、いくつかお伺いします。月経の停止は覚えておいでですか?」
「……三月二0日が最後の月経になります」

受け答えをしながらも、私は心の中でガクガク震えていた。
いや、こっちは医師経験者だから堂々としていてもいいはずなんだけどさ!
なんで舅姑と夫がずらりと並んで、私の生理周期暴露して、妊娠してます確認を見届けてんの!?羞恥プレイかよ!!
診察は胸と腹部の触診、脈診、むくみのチェック。
……うん、やっぱりそれだけ。本来なら定期的に行われる、超音波も血圧計測も採血も採尿もあるわけ無い。
なのに宮廷医は手帳にさらさらと何かを記し、静かに口を開いた。

「……はい、順調にございます。ご安心を」

その一言に、王と王妃は同時に顔をほころばせ、エドも心底安心したように微笑んだ。

いや!!何でだよ!?
書いている内容を覗き見したけど、それ何の役に立つんだ。って内容。
どう考えても安心できる要素ゼロだろ!?顔色とお腹の膨らみだけで『順調』って判定する世界、怖すぎるんだけど!?

王妃は満足げに頷きながら、私に向かって言った。

「これで証明されましたわね。子を宿したのは間違いなく、我が王太子妃」

あー……なるほど。そういうことか。
この診察は妊娠の経過を見るんじゃなくて、『誰が誰の子を妊娠したか』を公に確認するための儀式みたいなものなんだな。
確かにそれなら形式的に王と王妃が同席する意味もわかる。
……でも理解はできても納得はできない!羞恥心が爆発して気まずさで死ぬかと思ったわ!!