転生した悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!〜二つの王冠の子〜

情緒不安定の原因がはっきりしたことで、落ち込む時間は少し減った。
自分とお腹の子をどう守るか……考えるべきことが山ほどあるのだと理解できただけでも大きかった。

けれど、甘く見ていた。

……悪阻。

吐き気はまだほとんど無い。
けれど、どうしようもなく眠い。
朝起きられないのはもちろん、ワンワンの散歩中でさえ眠気が容赦なく襲ってくる。
夜は『エドが戻るまで起きていよう』と思うのに、食後の温もりに負け、気づけば朝になっていた。

午前の練習を終えて昼寝をしても、やっぱり夜には目が重い。
一日の半分以上を眠りに費やしているのでは、と呆れるほど。

あんなに毎晩だったのに、この一週間は先に眠ってばかり。
妊娠初期だから仕方ないとはいえ、エドの相手もできず、申し訳なさに胸がちくりと痛む。
……そう思っているこの瞬間にも、まぶたが落ちてくるのを我慢ができない……


執務を早く切り上げたエドと、久々にゆったりとした時間を過ごした。
ベッドで横になり他愛もない話をしているだけなのに、心地よくて、また眠気に誘われてしまう。
うとうとと落ちかけた時、大きな手が頬に触れた。
優しくて、どこか懐かしい。
その手に自分の手を重ねた瞬間、顔が近づき、自然に唇が触れ合う。

何度かキスを交わし、気がつけばその手がネグリジェの裾へ……。

「ダメ!!!」

反射的に力いっぱい押し返してしまった。
あまりに強く拒んでしまい、胸の奥に罪悪感が押し寄せる。
もっと柔らかい言い方があったのに、と。

身体を起こし、そっとエドの顔を覗く。

「リエル……俺は君に嫌われることをしてしまったなら、教えてほしい」

低く落ち着いた声に、胸が詰まった。
違う、そうじゃない。本当は、もう少し後で伝えるつもりだったのに……。

「違うよ」
「では……」

どう言えばいいのか迷う。頬が熱くなる。
それでも意を決し、エドの大きな手を取って下腹部へと導いた。

「多分……赤ちゃんがいる」
「……本当に?」
「うん。多分、っていうか……絶対に」

エドの瞳が揺れ、私の顔と下腹部に添えられた手を交互に見ている。
その反応が想像以上に淡白で、思わず口を尖らせた。

「なんだよ、もっと驚くとか、泣いて喜ぶとか無いの?嬉しくないの?」
「……あまりにも突然で、実感が……」

確かに、私だって想定より早かった。

「すぐに宮廷医を呼ばなければ……!」
「待て待て待てぇぇぇ!!」

勢いよく立ち上がったエドを慌てて制止する。
この世界の医療を図書館で調べた限り、ミリも信用できない。

「ごめん、この件に関しては、私より詳しい人はいないと思う」
「リエルが……?」

怪訝そうに眉を寄せるエド。
そりゃそう思うよな……一七歳の小娘が何を言うんだって……

「でも、事実私は自分で妊娠に気づいた。なんなら出産予定日もわかる」
「本当に?」
「もちろん」

初産だから多少の前後はあるだろうけど……。

「ただ……まだ流産の可能性が高い時期だから。具体的な日は言いたくない」
「……わかった。君を信じよう」

張り詰めていた心が、ふっと軽くなる。やっとエドに伝えられた。

「リエル……その、抱きしめるのは大丈夫かな?」
「もちろん!」

両手を広げると、すぐに力強く抱きすくめられる。

「ありがとう……俺は今、世界で一番幸せかもしれない」
「ふふ。エドは二番目だよ。一番は絶対私だから」

見つめ返す瞳が、この上なく優しい。胸が温かくなる。

「俺の言った通りだな」
「何が?」
「赤ん坊向けの本、いつか必要になる、と言っただろう?」
「ぷっ……確かに言ってた」

思わず笑い合い、再び唇が触れる。
幸せで、温かくて、涙が出そうになるほど甘い時間。
腕の中で眠りに落ちるまで、何度も、何度もキスを重ねた。