そんな穏やかな日々が続いたある日のこと。
珍しく昼食を共にしていると、従者が慌ただしく部屋へ駆け込んできた。
「殿下、ユリオス様から急ぎの封書が」
「……持ってきてくれるか?」
手渡された封筒の蜜蝋がパキッと割れる音が、やけに大きく響いた。
目を走らせたエドの顔が見る間に強張り、青ざめていく。
「エド……手紙には、なんて?」
「……明日、セシルと帝国皇女の婚約内定が公示される……と」
……内定?
え?私たちの結婚を前倒しにしたことで、セシルの婚約は無くなったんじゃなかったの?
「嘘……何で?」
「本来なら、内定まで両国間のやり取りに一年は要すると見ていた。だが……」
ということは。
明日発表されるということは、一年前からすでに話が動いていたということ。
その頃、アリエルはまだルシアンと婚約していた。
私とエドが結婚を早めたところで……実は、何の意味もなかったってこと?
頭の中で、后妃の言葉が甦る。
『未来の王妃殿下。どうか、その座を大切になさって』
私なんて、后妃にとってはいてもいなくても同じ。
取るに足らない存在だったんだ……そう思い知らされる。
「エド……セシルは、どうなっちゃうの……?」
「……」
「帝国に……連れて行かれるとか、そんなこと、ないよね?」
答えの代わりに、固く握られた手の熱だけが伝わってくる。
悔しいのは、私以上にエドのはず。
それでも……。
「っセシルの助けになるんじゃなかったのかよ!?」
無理して笑っていたセシルの顔が頭に焼きついて離れず、思わず声を荒げてしまう。
エドは……叶わないことを絶対に口にしない人だ。
何も言わないってことは……きっと、そういうことなんだ。
その夜は、ほんの少しキスを交わしただけで、何も言葉を残さず抱き合って眠った。
そして翌日。
帝国の第一王位継承権を持つ皇女と、セシルの婚約内定が正式に公示された。
さらに同時に、発表されたのは……一週間後、セシルが帝国に一年間留学する、という事実だった。
セシルが出発するまでの一週間、私はほとんど毎日のように面会を求め続けた。
手紙を送り、侍従に取り次ぎを頼み、声が届くものなら廊下に立ってでも呼びかけた。
それでも返ってくる答えは、どれも同じだった。
『留学準備で多忙のため、今は叶いません』
……事務的で、どこか冷たい文言。
まるで役所の窓口から届く定型通知のようで、セシルの気配も呼吸も感じられない。
彼自身が返していない。その確信だけが、胸の奥をじわじわと蝕んでいく。
避けられているのだろうか。
会いたくない、と言われたのだろうか。
考えまいとしても、思考はそちらに寄っていく。
日ごとに不安と焦燥が募り、落ちていく体温と同じ速度で心も沈んでいく。
視界の端すら灰色に感じられ、食欲も薄れていった。
そして、ついにセシルの出立の日がやってくる。
珍しく昼食を共にしていると、従者が慌ただしく部屋へ駆け込んできた。
「殿下、ユリオス様から急ぎの封書が」
「……持ってきてくれるか?」
手渡された封筒の蜜蝋がパキッと割れる音が、やけに大きく響いた。
目を走らせたエドの顔が見る間に強張り、青ざめていく。
「エド……手紙には、なんて?」
「……明日、セシルと帝国皇女の婚約内定が公示される……と」
……内定?
え?私たちの結婚を前倒しにしたことで、セシルの婚約は無くなったんじゃなかったの?
「嘘……何で?」
「本来なら、内定まで両国間のやり取りに一年は要すると見ていた。だが……」
ということは。
明日発表されるということは、一年前からすでに話が動いていたということ。
その頃、アリエルはまだルシアンと婚約していた。
私とエドが結婚を早めたところで……実は、何の意味もなかったってこと?
頭の中で、后妃の言葉が甦る。
『未来の王妃殿下。どうか、その座を大切になさって』
私なんて、后妃にとってはいてもいなくても同じ。
取るに足らない存在だったんだ……そう思い知らされる。
「エド……セシルは、どうなっちゃうの……?」
「……」
「帝国に……連れて行かれるとか、そんなこと、ないよね?」
答えの代わりに、固く握られた手の熱だけが伝わってくる。
悔しいのは、私以上にエドのはず。
それでも……。
「っセシルの助けになるんじゃなかったのかよ!?」
無理して笑っていたセシルの顔が頭に焼きついて離れず、思わず声を荒げてしまう。
エドは……叶わないことを絶対に口にしない人だ。
何も言わないってことは……きっと、そういうことなんだ。
その夜は、ほんの少しキスを交わしただけで、何も言葉を残さず抱き合って眠った。
そして翌日。
帝国の第一王位継承権を持つ皇女と、セシルの婚約内定が正式に公示された。
さらに同時に、発表されたのは……一週間後、セシルが帝国に一年間留学する、という事実だった。
セシルが出発するまでの一週間、私はほとんど毎日のように面会を求め続けた。
手紙を送り、侍従に取り次ぎを頼み、声が届くものなら廊下に立ってでも呼びかけた。
それでも返ってくる答えは、どれも同じだった。
『留学準備で多忙のため、今は叶いません』
……事務的で、どこか冷たい文言。
まるで役所の窓口から届く定型通知のようで、セシルの気配も呼吸も感じられない。
彼自身が返していない。その確信だけが、胸の奥をじわじわと蝕んでいく。
避けられているのだろうか。
会いたくない、と言われたのだろうか。
考えまいとしても、思考はそちらに寄っていく。
日ごとに不安と焦燥が募り、落ちていく体温と同じ速度で心も沈んでいく。
視界の端すら灰色に感じられ、食欲も薄れていった。
そして、ついにセシルの出立の日がやってくる。



