転生した悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!〜二つの王冠の子〜

ネグリジェに着替え、ベッドに転がり込む。
両手に抱えたのは、エドが図書館から持ってきてくれた本。ページを捲るたびに紙の匂いがふわりと漂う。

隣では、エドが最初は分厚い学術書に目を通していたのに、気づけば私が借りた恋愛物語を読み始めていて……。

「ファーストダンスを婚約者以外と踊るなど……浅はかだな。この国の未来は大丈夫なのか?」
「王子が侯爵家令嬢と結婚するのは……相当難しいと思うが」
「聖女が現れた程度で婚約破棄など、王子の風上にも置けないな」
「婚約破棄を高らかに叫ぶ王子が多すぎる……」
「破棄したその場で他国の王子と再婚約とは……この令嬢もなかなかだ」

……突っ込みの嵐で、全然内容が入ってこないんだけど!?

「いいんだって。そんなのは勢いで、雰囲気で読めばさ!」

思わず抗議するけれど、私だって転生後はラノベで培ったご都合展開の知識に対して、散々心の中で文句を言いまくってたし……人のことは言えないか。

「……リエルは、この物語の少女たちを救う王子のように扱われたいのかな?」
「お前、気づいてないかもだけど、大概やってっからな……」

私を独占しようとするし、無尽蔵に金を使おうとするし、評価だけは常にバグってる。
介護かってくらい甘やかしてくるし、最近はやたらスキンシップが激しい。
髪から頬から首筋から……あっちこっちにキスしてくるし。

「無自覚かよー……もう……」
「俺もまだまだってことかな」
「違うってば!」

ほんっとに、この人は悪びれもせずに言うから、私ばっかり困るんだよ……。

滅多に変わらない表情を崩したくて、隣に横たわるエドに思わず馬乗りになり、見下ろしながら問いかける。

「エドの初恋は私なんだって?」
「……誰から聞いたのかな?」

否定しない。ってことは、王妃の言う通りなんだ。
少なくとも、私が持つアリエルの記憶にはエドとの会話なんてなかったけど。
どこかで出会っていたのか?

「ユリオスかな?」
「……誰でもいいじゃん。で、いつから?」

王妃だけじゃなく兄も知ってるってことは、家族ぐるみで協力してたのか。
そんなことを考えていると、エドが指先を絡ませてくる。

「……八歳からかな」
「八年前?どこで会ったっけ……」
「俺が八歳の時。先日歩いた庭園で会ったのを覚えてないかな」

エドが八歳ってことは……。

「十二年も前から!?」

アリエルはその時、四歳。覚えてないのも当然だ。
けど、四歳のアリエルに恋して、十二年間忘れられなかったなんて……。

重っ!激重すぎる!!
そりゃ執着もするし、時折見せる余裕のない素振りも納得かも……。

「そう。だから……リエルは十二年分、しっかり受け止めないとね?」

からかうつもりで揺さぶったのに、指を絡めた手を強く引かれ、そのまま胸の中に押し包まれる。
息がかかる距離で、低い声が囁いた。

「……好きだ」
「リエルだけだ」
「離さない」
「愛してる」

熱を帯びた声が、耳の奥をくすぐるように次々と落ちてくる。
その一つ一つが、指先でなぞられるみたいに胸の奥へ焼きついていく。

どれほど時間が過ぎたのか分からない。
眠りに落ちるたび、名前を呼ぶ声に引き戻される。

「リエル……リエル……」

何度も、何度も。
一晩中、愛を告げられ、名前を呼ばれ続けた。
十二年分の想いは本来なら重すぎるはずなのに、不思議と甘すぎるほど心地よくて……受け止めるだけで精一杯だった。