転生した悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!〜二つの王冠の子〜

……王宮の図書館に足を踏み入れた瞬間、思わず息をのむ。

両脇に延々と続く二階建ての書架。白と金の装飾に縁取られ、革表紙の本がぎっしりと収められている。
まるで彼女を歓迎するかのように、静かに並ぶ書物たち。

「すご……!公爵邸の図書館もすごかったけど。ここ、別格すぎない!?」

天井いっぱいに描かれた鮮やかな壁画。きらめくシャンデリア。
整然と並ぶ年代記や学術書。荘厳さが空気ごと押し寄せる。

「王宮が誇る知の殿堂だ。ほとんどの学問や魔導の記録が収められている」
「そういうのもいいんだけどさ。私どうせ魔法使えないし……」

低い棚を覗き込みながら首を傾げる。

「うーん。もっとこう……冒険譚とか、騎士と姫の恋物語とか!そういう俗っぽいのないの!?」
「あぁ、君がいつも街の本屋で買うような物語のことか」

エドが笑いながら手を取って奥の書架へ導いた。
そこには戦記や魔導書に混じって、場違いなほど軽やかな装丁の冊子が押し込まれていた。

「……えっ」

派手な挿絵に煌めくタイトル。

『無職貴族~働いたら負けだと思っている~』
『中二病でも聖女になりたい!』
『あの日見た草の名前を私達はまだ知らない。』

「これ!こういうの!!」

ぱらぱらとめくりながら思わず歓声を上げてしまう。
誰からも読まれないせいか、埃をかぶっていた冊子たちが急に宝物のように見えてくる。

「……本当に好きなんだな」
「だって読んでると胸がきゅーってなるし、知らない世界に連れてってくれるんだよ!?こういうのこそ物語の醍醐味でしょ!」

両手いっぱいに本を抱え、夢中で熱弁するリエル。
脚立に腰かけてぱらぱらと本を捲る姿は、子どものように無邪気だった。

「リエル。君にはこれが似合う気がする」

エドが差し出したのは、革表紙に花の金箔が押された一冊。
『私の幸せな婚約』……王家の書庫にしては珍しい、甘やかで情熱的な恋愛譚だ。

「……わ、これ……」

装丁は少し擦れているのに、不思議と温もりを感じる。

「このヒーローに負ける気はしないけどね」
「ぷっ……!あははは!!確かに、エドの方が格好いいかも」

見上げた瞬間、本棚に肘をついたエドの顔が近づき、軽く唇が触れる。
視線が絡み合い、二人で笑いをこらえきれず吹き出してしまった。

「しっ……!」

慌てて人差し指を口に当てる。
けれど、物語の王子に張り合うエドの姿が可笑しくて、笑いが止まらない。
そのまま笑いをごまかすように、そっともう一度だけ唇を重ねた。