転生した悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!〜二つの王冠の子〜

ずっと考えていた。
もし代われるなら、もし戻れるなら……エドに本物のアリエルを返してあげられるかもしれない。
だってエドが本当に愛したのは、私じゃなくて『彼女』だから。

でもそうしたら……私は?
西村涼子は、どこへ行ってしまうんだろう。
きっと二度と、エドには会えなくなる。

当然だ。神官の言葉を借りるなら、本来なら私こそが終えているはずの生なのだから。

でも……それが、正しい形であるべきなんだ。
エドが見つめるのが、私ではなく本物のアリエルに戻るだけなんだ。
本物のアリエルなら、きっと私のような行動はしないだろう。
エドの理想の美しく素直な女の子のはずだ。

それでも、想像しただけで胸が痛み、喉が詰まった。

「ご安心なさい。深い眠りについているもう一つの魂は、やがてその生を終え……新しい魂を宿すでしょう」
「それって……」

もしや、アリエルも別の場所で生まれ変わるということなのだろうか。
私の顔に不安が浮かんでいたのだろう。
神官は優しく微笑み、さらに言葉を重ねた。

「あなたが気に病むことは、なに一つありません」

もし、アリエルに身体を返すことができたら……
私は遠いどこかで、エドとアリエルの幸せを願えばいい……ずっとそう思っていた。
けれど今の私は、こんなにも……この身体を、エドとの時間を、手放したくないと強く願っている。

アリエル……本当にいいのか?
私が、お前の人生を引き継いでしまっても。

「どうぞ、あなた自身が望む幸せへと歩みなさい。エドガー殿下と共に」
「……はい。ありがとうございます」

深々と頭を下げ、エドの待つ外へと歩みを進める。
その瞬間、まるで自分が本当に『生まれ変わった』ような感覚に包まれた。

出口が近づき、眩しい光に目を細めながら外に出ると、そこには私を待つエドの姿があった。

「リエル」

ただ名前を呼ばれただけなのに、胸の奥がじんわりと熱くなる。
神官の言葉がまだ耳に残っているのに、気づけば頬を伝って涙が零れていた。

「リエル?どうした、どこか痛むのか?」
「……っ、え、あれ?」

慌てて覗き込むエドの氷青の瞳に、また新しい涙が溢れ出す。
違う、痛みじゃない。ただ、この顔を見たら、すべてが堰を切ったように溢れてしまう。

「なんで……止まらなくて。なんでも、ないんだよ……」

嗚咽を押し殺しながらそう告げると、エドは何も言わず、ただ強く抱き締めてくれた。
周囲の視線も神殿の威厳も、この瞬間はすべて遠のいてしまったかのようで。

……ごめん、エド。
アリエルを返してあげられなくて。
でも、私なりに……精いっぱいお前を大切にするから。

そう思った瞬間、胸の奥の重さが少しだけほどけた気がした。