転生した悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!〜二つの王冠の子〜

大聖堂の高い扉がゆっくり開くと、朝の光が一斉に差し込み、会場に澄んだ空気が満ちた。
無数の視線が一斉に私に注がれる。王族の列席者が最前列に並び、その背後には高位貴族がずらりと並ぶ。
煌びやかな礼服やドレスの色彩は、ステンドグラスの色と溶け合い、まるで夢の中の舞台のようだ。

楽師の調べが静まると、神官が厳かな声で結婚の誓約を告げる。
私は純白のドレスを纏い、長いベールを垂らしたまま、一歩一歩バージンロードを踏みしめる。
冷たい大理石の床が静かに足裏を伝い、緊張が一つずつ身体に染み込んでいく。

やがて祭壇の前、待つエドの姿が視界に入る。
金糸を織り込んだ軍装風の正礼装に身を包み、真っすぐに私を見据えている。
その眼差しは、冷静な仮面の奥に燃えるような情熱を隠しきれず、胸が強く跳ねる。

侍従に導かれ、私は彼の隣に並ぶ。神官が巻物を広げ、古い言葉で誓約を読み上げる。

「……死が二人を分つまで、互いに支え合い、運命を分かち、王国の未来を共に築くことを誓いますか」
「誓います」

エドの低く澄んだ声が堂内に深く響く。やがてその視線が私に向けられる。

エド。私には相変わらず、大それた言葉を真正面から受け止めるだけの覚悟はない。
だけど、お前と一緒なら、少しは頑張れそうな気がする。
だからここで誓うのは、国でも神でもなく……お前にだけ、だと。

「……誓います」

その瞬間、堂内が一瞬ざわめき、厳かな鐘の音が大きく鳴る。

続いて指輪の交換が行われる。
侍従がそっと運んできた小さなクッションの上には、王家に伝わる二つの指輪が静かに並んでいる。
宝石は控えめに、小さなサファイアが中央で静かに光っている。

エドが私の手を取る。彼の指先は温かく、ふと肩が震えるほどの熱を感じた。
躊躇うことなく、これまで空席だった左手の薬指に指輪が滑り込む。

そして今度は、エドの指に指輪をはめる番だ。

この手に触れるのは、いつ以来だろう。
大きくて頼もしい。いつも私の手をすっぽり包み、時にぎゅっと抱きしめ、髪や頬にそっと触れてくれる。
この世界で私に触れることが許されている、唯一の手。

「大丈夫。うん」

自分に向けた弱い返事を心の中で繰り返す。
エドの顔をちらりと見上げると、彼の表情がふっと柔らぐ。
王太子妃なんて柄ではない自分でも、目の前の彼の妻になら、なれるような気がした。
エドの左手の薬指に指輪をはめた瞬間、柔らかな光が二人の手を包み、淡い魔法の紋がゆっくり浮かび上がる。

「!!?」

彼はわずかに口元を緩め、私にだけ聞こえるくらいの小声で囁いた。

「大丈夫。王家とクローバー家の縁を示す加護の証だ」

……だからさぁぁぁっぁ!!
なんでこういうの、誰も事前に教えてくれないんだってばぁぁぁ!!!!
もう、これって別にもっと凄い誓約とかが隠れてるんじゃないかって、不安がぐるぐるするんだけど!!!

堂内に大きな拍手が湧き起こる。私はまだ少し呆然としながら、隣のエドを横目で見た。

「……リエル、愛している」

心臓の高鳴りを必死で押し隠し、祝福の拍手に包まれて私は立ち尽くしていた。

拍手の余韻が消えかけた頃、誰かの温もりが伝わる。
エドの手がぎゅっと私の指を強く握り返す。それは言葉以上に確かな約束の重みを感じさせる仕草だった。
私は呼吸を整え、ゆっくりと目を閉じた。
ドレスの裾が床に触れる感触、花の甘い香り、誰かが囁いた祝福の声……そのすべてが胸に積み重なり、これから始まる日々の重さと幸福がじわりと押し寄せてきた。
エドの瞳を見て、私は小さく笑った。それだけで、もう迷わないと自分に言い聞かせた。

これが、私たちの始まりだ。本当に、きっとそう。

結婚の誓約と指輪交換を終え、神官の言葉が静まり返る。
玉座に座していた国王がゆるりと立ち上がったその瞬間、大聖堂にぴんと張り詰めた空気が走る。

「ここに、アストリア王国第一王子エドガー・ルクス・アストリアと、クローバー公爵家令嬢アリエル・C・ラバーの婚姻を認め、アリエルを正式に王太子妃とする」

堂内いっぱいに響き渡る王の声。王族も貴族も一斉に立ち上がり、深々と頭を垂れる。荘厳な鐘が再び鳴り、扉の外からは民衆の歓声が轟いた。

……ちょ、待って。今さらっと言われたけど、私もう『王太子妃』になっちゃったの!?
あぁ……さっき『誓います』って言っちゃったから、もう契約解除とかできないんだよな……?
うわぁぁぁ……完全に既婚者じゃん!
あれ、もしかして名前変わってるのかな?『アリエル・ルクス・アストリア』になってる?
……慣れないんだけど。夫婦別姓とか、この国にあるわけないよなぁ、絶対。
横に立つエドがわずかに口元を綻ばせ、私の手をぎゅっと握る。その仕草が『逃がさない』と告げているようで、胸の奥がゾワッとするような感覚がする。